蟻は今日も迷路を作って

くだくだ考えては出口のない迷路に陥っている

髪を染めてみたい人生だった

 は髪の毛を染めたことがなくて、何度か緑色にしてやろうと思ったんだけど、そのたびに周りから「似合わなそう」「陰キャなのにやめなよ」「キャラじゃない」などと言われ、いちいち核心を突いてくる指摘であるためにどうしても染髪に踏み切れず、変な色に染められるのは学生のうちだったのに、いよいよ時機を逃してしまった。


 
 私は若白髪が最近酷いので、そのうち黒染めするかもしれないが、それもどうかと思う。髪を黒に染めた~って。おい。悲しいじゃないか。

 

 私の大学の先生は髪の毛を変な色に染めている奴に恐ろしい偏見を抱いている。
「変な色に染めている奴は家庭の事情が複雑な可能性が高い」
 先生が出会ってきた生徒のうち、変な色に染めている奴らは留年したり中退したりする確率が高く、成績が悪い人間も多くて、心を病んで休学する者が多かったそうだ。そして、そういう人たちは大抵母親を亡くしていたり父親がいなかったり、家庭環境があまりよろしくないようだった。
 必ずしもそうではないものの、あくまで、確率として。
 ひどい偏見だ。
 でも私の知人にも心当たりがあって、彼女は毎週のように赤や緑に髪の毛を染めており、ピエロみたいな女の子だったけど、そのうち学校に来なくなってしまった。いつも父親の話をしていたから、母親がいなかったのかもしれない。
 わからないけど。

 

 先生にそのような思想を植え付けられた私は、へたに髪を染められなくなった。先生の言葉は威力がある。簡単に私を洗脳する。本も買わされた。そのかわり単位をくれた。
 でもやっぱり緑色に染めたくて、何度も葛藤した。
 こんな髪色で授業に出たら先生に撲殺されるのではないか。
 いや、家庭環境を勘違い気味に心配されてむしろ親身になってくれるのでは……。
 いや、とりあえず一度心配されて、そのあと撲殺されるに違いない……。
 先生を鬼か何かだと思っている私は、結局髪を染めなかった。
 でも、それでよかったんだ。髪の毛を変な色に染めている人には悪いけど、髪の毛を紫や赤や白金にしているのに眉毛は黒いのはみっともないと街中で思う。私が染めたところでますますみっともなくなるだけだ。

 私には妹がいるのだが、妹は大学に入るや否や髪の毛を変な色に染めだした。茶色で毛先はとか。
 色が抜けてくるとみっともないヤンキーみたいでみっともない。深夜のドンキにマイメロのパーカーとキティちゃんのサンダルを履いて、前髪を上げてすっぴんでマスクをしてウロウロしてそうな感じだ。そんで安い洗剤とか買ってそうだ。
 そんな髪色にしているとうちの家庭環境が悪いと思われるからやめなさい、と言いたかったが、髪を染めるのは個人の自由だし、はっきり言って妹がどう思われようが私は知ったこっちゃないので、やめた。
 

 そう思いながらその日も、いつも通り、母と妹と三人で夕食を食べた。
 玄米、漬物、干物。無味乾燥の日々。

 

 

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