おれは「かわいい」になりてぇ。
シナモンとかポムポムプリンとかキキララとかコウペンちゃんとか自分ツッコミくまとか ねこペンとか お買いものパンダとか しかるねことか、とにかくそういった「かわいい」になりてぇ。
Twitterで自撮りを載せてる女の子とか吉岡里帆ちゃんとか橋本環奈ちゃんとか乃木坂の子たちみたいな「かわいい」ではなくて、キャラクターの、なんていうか、「かわいい」を具現化した抽象になりてぇのだ。
要するに、
「かわいい」という概念になりてぇのだ。
おれは考えた。どうすれば「かわいい」になれるのか?
考え続けて数年が経った。
おれはおっさんになりつつあった。
まだ爽やかなおっさんだけど、まだ23歳だけど、着々とおっさんになりつつあった。髭が伸びつつあった。枕からおっさんのにおいがしつつあった。
おれはどうすべきか、焼酎の水割りを飲みながら考えた。
そうして惰眠を貪る日々が続いている。
眠っている間にパンケーキになれれば、と思う。
パンケーキは最も可愛い食べ物のひとつだ。他に可愛い食べ物といえば、ソフトクリーム、マカロニ、おむすび、きなこもち等がある。おれはその中ならパンケーキになりたい。
だからパンケーキを食うときは、カニバリズムで死者の生前の強さを食らう儀式的な意味合いが強いことと通ずるが、パンケーキの「かわいさ」を食らうことを念頭に置いて、一瞬で食べるようにしている。
嘘だ。気付けば皿からなくなっているのだ。
パンケーキは美味いから。
どうすれば「かわいい」になれるのか?
おれの答えは「転生」だ。
イラストレーターの「思念」として「転生」するしかない。
自分で描けばいいじゃん、と言う奴。前へ出ろ。そういうことではないのだ。「かわいい」を描いても「かわいい」概念それ自体にはなれないだろうが。おれはイラストレーターになりたいのではない。「かわいい」になりてぇのだ。たわけ。
せめてかわいいおっさんにならなければならない。
おれが思う「かわいいおっさん」とは何か?おれは、太ってて一生懸命なおっさんが可愛いと思う。力士が可愛いと思う。
だめだ。
おれは力士にはなりたくない。デブにはなりたくない。
デブになったら麻酔をせず出刃包丁で脂肪を摘出する、といつも恋人に言われているのだ。そんなことをしたら高確率で死んでしまう。ちなみに、浮気をしたら睾丸を摘出して宦官(かんがん)にする、と言われている。おれは司馬遷にはなれない。一応言っておくが、この段落に書いてあることはすべて嘘だ。おれはすぐに嘘をつく。可愛くない人間だ。
おれは「かわいい」になりてぇ。
キャラクターたちの暮らす長閑な世界で、いちご摘みをしてぇ。リンゴを捥(も)ぎてぇ。花のブーケを作りてぇ。
「かわいい」になりてぇから、今夜も酒を飲む。
酔つぱらつて蕩(とろ)けた世界は、すこしだけかわいい。
人間はかわいい。