蟻は今日も迷路を作って

真面目な話からそうでない話まで。本当の話から嘘の話まで。蟻迷路(ありめいろ)という人が書いてます。

深夜2時の留守番電話

 年の夏だ。

 その夜私は寝られなくて、Twitterを見たりまとめサイトを見たりYouTubeでヒカキンを見たりブルーライトに疲れたら目を閉じて夢想したり、そのようにして寝られない夜の苦しみを味わっていた。眠れぬ夜は寝ないに限る。

 ああ、ついに丑三つ時だな。

 丑三つ時は嫌な音がそこかしこでする。この世のものではない気配がする。カーテンの隙間から猿の妖怪が私が眠れないのをヒヒヒと嗤いながら覗いてる気がする。この時間、私の夢想は恐怖に支配される。

 丑三つ時だな。そう思った時だった。iPhoneが鳴った。

 無表情な着信音に驚き確認してみると、知らない番号だった。

 深夜2時に知らない番号からかかってくるなんていよいよだな、寺生まれの幼馴染がいればな、と私は震え、枕を被って着信が止まるのを待った。

 着信が止まりしばらくすると、留守番電話サービスの通知が入った。

 え?

 私に何かメッセージを残していった?

 莫迦な。怖すぎる。なんなんだ。私はこれはこの世の者の仕業ではないことを確信し、しかし、恐怖に反して好奇心のあまり留守番電話サービスに回線を繋いでしまったのだ。

 「●月●日午前2時●分のメッセージです。」無表情な女の声の後で、メッセージは再生された。

 

 『みんな、待ってます。はやく、帰ってきて、ください。お兄ちゃんも、???さん(聞き取れず)も来てくれています。チャミィも待ってます。どこへ行ったのですか?』

 

 メッセージの声は年老いた男性のものだった。

 男性の声は震えていて明らかになにかに怯えている様子であり、内容も含めて尋常ではなかった。

 

 は???????????????????

 

 なんで怖がらせるの???????????

 

 ふざけんな、と私はこの時点で失禁、過度の恐怖による頭痛で日本脳炎になっていたのだが、冷静さを失わず、恋人に鬼LINEをかました。

「やばい助けて」

「変な留守電来た」

「あかん」

 みたいなことを数十件送ったと思う。しかし、未読。そりゃそうだ。深夜2時なんて寝てるに決まってる。

 ますます眠れなくなった私はYouTubeでできるだけくだらない動画を探して、にこりともせず、まんじりともせず、タオルケットを被って眺めていた。

 しばらくして、ようやくうとうとなりかけた時、またしても同じ番号から電話が入った。

 ふざけんな。iPhoneを枕の下に沈めた。

 鳴りやむと、そして再び、新たな留守電が入っていた。

 

『?????です(聞き取れず。声は同じ男性で、名乗ったようだ)。みんなで、探してます 。とても心配、しています。ナントカさん(聞き取れず)も来てくれまし(音声乱れる)。はやく、帰って、来てください。チャミィも心配しています』

 

 チャミィってなんだよ。

 犬か?猫か?

 

 番号の履歴が残ったのでGoogleで調べたところ、電話番号は神奈川県の相模原市という田舎のものだった。この調査で私の頭は完全に冷え、失禁した布団も冷え切った。これは物の怪の仕業ではない。現実の人間の手によるものだ。

 もしも。

 もしもこれがいたずら電話ではなく本当に誰かを探しているのなら、大変なことなんじゃないだろうか?

 例えば男性の探しているのが娘だとして、娘が家出でもしたのだったら?あるいは彼の妻が認知症で徘徊癖があり、夜中にどこかへ行ってしまったのなら?

 こんなことも考えられる。男性がボケていて私の電話にかけたのだ。でもどうして私の電話に?

 考えても謎は深まるばかりだった。

 警察に連絡すればいいのだけど、はっきり言って面倒ごとに関わるのは御免だ。事件性があるのかどうかもわからない。

 

 結局どうしたかと言うと、私は再び恋人に鬼LINEを送り、iPhoneの電源を切って、静かに眠りが訪れるのを待った。

 案の定ほとんど眠れなくて、翌朝、寝ぼけ眼で恐る恐るiPhoneの電源をつけると、もうそれ以上着信も留守電も入っていなくて、心配した恋人からの鬼LINEが入っていただけだった。

 

 

 留守電のおじいさんがそれからどうなったのか、私は未だに知らない。

 探し人が帰ってきたのかもしれないし、なんらかの解決があったのだろう、と思いたいところだ。

 

 

 チャミィってなんだよ……。