蟻は今日も迷路を作って

くだくだ考えては出口のない迷路に陥っている

UFO見たことある人、挙手!

  はい!!!

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    私は Unidentified Flying Object すなわちUFOを見たことがある。

    公園にあるUFO型の遊具とかオブジェとか動画サイトの映像ではなく、まじでこの目で、正体不明の飛行物体を見たのだ。


    しかも2回。


    どちらも高校生の頃だったので、多感なあの時期のことだ、中二病未だ抜け切らず自分が特別な人間であるかのように思い込んで信じずにはいられないものの、いざ現実に面と向かうと平凡な自分の影を見つめねばならず、その矛盾と期待への裏切りにも似た嘆息に、毎日のように死のうと思っていたあの頃のことだ、幻覚だったのかもしれないが、2回のうち1回は昔精神病を患っていた母と犬二頭と見たので、確信が持てる。私はたしかに見た。

    私はすぐにインターネットで嘘をついてしまうロクでもない人間で、これまでさんざん読者とフォロワーを騙してきたけど(バレてないならそれでいいんだ。この文章は読まなかったことにしてくれ)、このUFOはマジの本当のノンフィクションなので、信じてほしい。信じてくれた人は天からの免罪を受ける(またすぐに嘘をついたな)。

 

 *****

 

    私は近所の海を母と犬二頭と散歩し、砂浜に降りる石階段に腰掛けていた。 

    夕焼けがとても綺麗で、たしか春だったと思う、富士山の影が ぼうとそびえていた。

「こんな日はね、UFOが見えるんだよ」母が言った。

    こんな言葉、幼馴染の体の弱い美少女とか、高校で僕だけに仲良くしてくれる不思議ちゃんとか、そういったアニメのキャラクターからしか聞けないセリフだけど、セリフなんかではなく母は自然に言ったし、私の隣にいたのはアニメキャラではなく、美少女の面影をふんだんに残した(こう書けと脅されました)、中年のオバハンであった。

「へぇ~」嘘だと思ったので、私はテキトーに返事した。

「ママね、ここで何回も見たよ。富士山の方で、たまにキラッと光るんだよね。ふわふわ漂ってさ」

    母もすぐ嘘をつく。面白いと思ってるのだ。私も気をつけよう。嘘をつかれて面白い人なんていない。

 
    すると

 
「あれ、UFOじゃない?」母は富士山の左のほうを指した。

    たしかに、ゆっくりと、わずかに移動する光る物体があった。けどあれは、おそらく飛行機だ。夕日が機体に反射して光っているのだろう。ようく観察すると、ちょっとずつ、ちょっとずつ移動しているので、金星や星の類ではないことがわかる。

    間違いなく、あれは飛行機だった。

「飛行機じゃん」

「えー、いやいや、UFOだよ。そのうちもっと動くよ」

    まさか。

    しかし、母が言った次の瞬間、飛行機は姿を消した。

    一瞬、え、と思ったけど、機体の角度を変えて反射しなくなったのだろう。そう納得できたし、それが間違いとは思えなかった。


    先に言うが、私の考えは誤りだった。


    光る物体は数十秒すると、今度は消えた付近からかなり上のところに姿を現した。その姿の表し方は「忽然と消える」の逆で、最初からそこにいたみたいだった。私たちが気付いていなかっただけなのではないか?そう思えるほど自然で不自然極まりない姿の現し方をした。

    その物体の動き方は奇妙そのものだった。

    飛行機ではあり得ない蛇行をし、上下にものすごい速さで移動して、富士山の頂上を軽く超えたと思ったら、1秒もしないで水平線上に浮かんでいた。明滅し、同じ箇所を高速で行ったり来たりした。まるで小鳥のように自由に空を駆け回るのだ。

    私と母は絶句した。ケータイで撮ろうとも思えないし、撮れるとも思えなかった。遠すぎたし、飛行物体の光はビーズのように小さいのだ。まばたきしたら消えてしまいそうなほど。

    やがて、今度は言葉通りに、忽然と姿を消した。

    まるではじめからいなかったみたいに。

 
    あれはなんだったのだろう。

    私と母は興奮気味で家へ帰った。あれは、UFOであったとしか説明しようがなかった。

 

 

*****

 

 

    つぎは、それから半年か一年経った夜だ。

    だいたい、どうして夜一人で歩いていたのか思い出せないけど、私は薄く曇った夜空を見上げて歩いていた。 

    UFOいたらな、なんて思いながら歩いていると、淡い光の丸いものが星の瞬きの間を縫うように、夜空を這っていた。

    蛍や飛行機や人工衛星ではない。あんな動きできるものか。

    明滅すると、星の闇に姿を消して二度と見えなかった。

 

 

*****

 

 

    UFOは幻なのだろうか?私たちが見たいと何気なく、けれど強く思うことで姿を現わすのだろうか?変だ。

    UFO見たさに私たちの脳が見せた、都合のいい幻覚なのか?でも、私と母は同じUFOを見たのだから、ありえない。

    なんなんだろう。

    真相はわからないし、明かされない方がいいこともある。気まぐれに出会った一度きりの女と過ごした夜みたいに。

   二度目はほんの数秒のことだったけど、母と見たときは、1分くらい観察できて、姿を消して現すたびにあっちだこっちだと二人で空を指差して探しあった。そして、どちらかが見つけた先にそれはいて、変な動きをするたびに私と母は絶句するのだ。


    母は、ね!本当にいたでしょ!言う通りでしょ!と子どもみたいにはしゃいだ。私と犬は楽しくて砂浜を走った。

    本当に、母が病弱な美少女の幼馴染だったらよかったのに。僕はその幼馴染と春の夕方に、海の向こうにUFOを見る。それは二人だけが信じられる、言葉ではない絆であり、約束になる。彼女はもうすぐ田舎の施設に療養に入るため、この街を離れてしまう。手紙書くね、と約束して最初のうちは手紙を出し合っていたのに、やがて僕には好きな人ができて、幼馴染の存在を忘れていってしまう。今では彼女がどうしているのか、生きているのかすらわからない。僕は大学を出てロクでもない仕事に就き、何人も女の子を泣かせたし、多くのものを失い、大切なものを壊してしまった。思えば、君が引っ越してしまってから何かが狂い出したのだ。君との初恋を不燃焼のまま中絶してしまってから。そんなある日、おっさんになった僕のもとに、一通の手紙が届く。そこにはこう書かれている。「UFOを一緒に見たいな」それは、あの幼馴染の遺した子どもからの手紙だった。。。

 

 

    そんな人生はUFOよりも珍しいし、ふつうに小説として書こうかな。おもしろそう。

    パクったら許さんぞ。