蟻は今日も迷路を作って

真面目な話からそうでない話まで。本当の話から嘘の話まで。蟻迷路(ありめいろ)という人が書いてます。

カラスの赤ちゃんと海水の夢日記

    近夢の話ばかりで申し訳ないのだけど、これまた珍妙な夢を見た(珍妙ではない夢なんてないのだけど)。

    ただ、少し前に見た夢であるため細部は覚束なく、多少の整合性を取るために創作していることを許してほしいし、夢を語るとき人は誰でも口から出まかせに創作しているので、気にしないでほしい。

    そんなに大した夢ではないのだ。ただ、どうしてそんな夢を見たのかわからない。

    夢日記として記す。

 


*****

 


    私は入江の堤防で釣りをしていた。天気は曇っていたが、海は穏やかで風もなく、釣果も穏やかすぎてつまらないものだった。雨靴の一足も釣れない。

    バケツに入っているのはカエルとオタマジャクシだけで、彼らは狭いバケツ内を、何も釣れない私をバカにするみたいに悠々泳いでいた。

    とそこで、浮きが動いた。

    引き揚げてみると、羽毛の生えた黒い物体が力なく血を流して釣り針にかかっていた。それは、怪我をしたカラスの赤ちゃんだった。

    カラスの赤ちゃんは腹部をなにか魚類に噛まれたようで、そこから血を垂らしているのだが、羽毛が邪魔で傷口はよく見えない。呼吸は小さく、すぐに手当てしたいが、近くに動物病院もないし、カラスを助けたところでどうなる、という損得勘定もあってすぐには動き出せない私がいた。

    でも、どうなるか、よりもシンプルに助けたい思いが強くなって、私はバケツの水を流れのあるところで新しい海水に入れ替え(この時カエルの親子はどこかへ消えた)、それにカラスの赤ちゃんを漬けた。

    海水には回復効果があるのだ。夢の中ではそういうことになっている。

    カラスの赤ちゃんは水面に首を伸ばして呼吸をし、うとうとした。気持ち良いのだろう。

    どれくらい海水に漬ければいいかわからないけど、長い時間であることは確かだったので、家に連れ帰る訳にもいかないし、とりあえず一晩、カラスの赤ちゃんは堤防の陰に置いて様子見をすることにした。日傘で隠した。トンビやハクビシンや野良猫に襲われないように。

    私は自転車で自宅に帰った。雨が降りそうだった。

 


    翌日の天気は前日よりも崩れていて、細かい雨が時々降ったし、冷たい風は休むことなく吹いていた。

    ちょっとまずいかもな、と思いつつ堤防に着き、バケツの中を見ると、水は墨汁のように黒く濁り、カラスの赤ちゃんは姿を消していた。

    なにが起こったのかわからない。

    カラスの赤ちゃんは回復して飛んで行ったのだろうか?それとも何かに襲われただろうか?とにかく姿を消していて、水の黒さが不気味だ。それは、死のイメージを起こさせる黒さだった。

    バケツをひっくり返すと、黒い水に混じって白い塊がベシッと出てきて、それはよく見ると羽の抜けたカラスの赤ちゃんだった。私は驚いて悲鳴をあげる。羽毛のすべて抜けたカラスの赤ちゃんはやせ細っていて、皮膚も白というよりほとんど透明で、内臓や血管が透けて見えたのだ。タイ料理のカオマンガイみたいになっていた。

 

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    ピクリとも動かないので、死んでしまったと思った。

    私が回復を信じて漬けた海水により、死んでしまったのだ。私が殺したも同然だ。カラスの赤ちゃんは徐々に衰弱し、ゆっくりと海水に呑まれ、溺れ死んだのだ。恐ろしいことをしてしまった。私は選択を誤ったのだ。そして、ひとつの命を摘んだ。さっさと病院に連れて行くべきだったし、さもなければ持ち帰って面倒を見るべきだった。 

    カラスの赤ちゃんの腹部の傷が、羽毛がなくなったことで見えるようになった。海水の回復効果ですっかり治っていた。それだけが私の心を慰めた。死んでたけど。

    どういうわけかカラスの赤ちゃんの羽は抜けて、羽毛が海水に溶けてしまった。海水は薬にもなるが、猛毒にもなる。そのことを私は知った。


    すると、カラスの赤ちゃんが首をピクピク動かした。

    生きていた!よく見ると、透けた肌の下で小さな心臓が動いていた。

    私は喜び、赤ちゃんを抱き上げる。体温が通う。リカちゃん人形くらいの大きさの命!持ち上げると、筋肉がぐでんと垂れ、か弱い骨がパキパキ音を立てた。

    私が触れていると死んでしまう。カラスの赤ちゃんは苦しそうに呼吸し、やがて首を下に、そっと目を閉じて、はじめは淡く、次第に力強く光りはじめた。


    は?


    カラスの赤ちゃんが美少女に見えてきて、目をこすった。くちばしが縮んで、目の位置が近付き、黄色い髪の毛が伸びる。私の目が悪いのではなく、明らかに姿を変貌させているのだ。それは、モーフィングのようだった。

    気がつけば私が手にしていたのは、まさにリカちゃん人形みたいな、小さな美少女だった。

 


*****

 


    夢はそこで終わった。なんだったのだろう。


    私は判断の誤りを正当化しようとしていることが見てとれる。海水に漬けたことで赤ちゃんは死にかけたが、傷は修復していたということが、判断の誤りを正当化しようとしているし、その後のありえない変貌は、さらなる正当化とも取れるし、もしくは結果論で「これでよかった」と言える未来を待ち望んでいるとも考えられる。

    夢の中の私は、間違っていないということを信じたくて仕方がないのだろう。

    

    現実生活でそんなことがあったかどうか思い当たる節はないけど、心の底で私はなにか判断と選択の後悔があったのかもしれない。

 

    核心に触れるには、あまりにも危険な気がするので、この辺でよしておこう。