蟻は今日も迷路を作って

くだくだ考えては出口のない迷路に陥っている

恋か音楽か、夢か

    ンド内恋愛ほど予定調和なものもない。

    ギター、ベース、ドラムが男で、ボーカルだけ女の子のバンドを見かけたら、注目すべきは演奏中のボーカルの目の配せかたである。バンドは集団音楽であるからお互いに見ることは重要なのだけど、その瞳の濃さが、意中の相手の場合は異なるからだ。

    どう違うのか教えなくても、動物的勘で観客側はわかるものだ。結局のところ、彼女は観客に向けて歌っているのではなく、意中のドラムに向けて歌っているのである。そういうことはバレバレだ。

    

    バンドではないけど、私は学生時代、オーケストラ的なものをやっていて、そこで1年間指揮者を務めたことがある。そのときに、自分と同じパートの先輩と恋に落ちていた(現恋人なのだが)。

    演奏会当日、恋人は観客として来ていた彼女の友だちから「指揮者の彼が彼氏でしょ」と見破られたという。

    友だちには私が彼女の恋人だなんて一言も言っていないのに、その友だちは、私を見つめる彼女の顔つきや瞳の濃さを見て、指揮者である私が恋人であることを見破ったのだ。代名詞が入り組んでてわかりづらいな。

 

    動物的勘とは、そういうものだ。人間にだって嗅覚はある。嗅ぎわけることくらい、わけない。

 

    そういった具合に、バンド内恋愛もほとんどお見通しだし、バンド内恋愛をして続いたバンドは知っている限り稀有である。

    サザンとか、一部のバンドは例外であるとして、多くのバンドはバンド内での女の取り合いになって、破滅する。

    高校生のとき、軽音楽部でそういうのをよく見た。

    あんな女の何がいいのか、閉じられたコミュニティでは、男は限られた女に対して時間を重ねるごとに等比数列的に欲情し盲目になっていく。男は悲しい生き物なので、可愛がってあげてほしい。

   

    男女間の友情なんて、同性間の友情に比べれば些細なものであると私は思う。

    男と女は完全にわかりあえない別の生き物だから良いのだろう。男女間の友情とやらは、どこかで恋愛と肉体の関係になる可能性を秘めている。男は特にそういう可能性を求めてしまう生き物だから、どうか許してやってほしい。

    許すもなにも、男のそういったところをうまく利用しするのが賢い女だ。女まで愚かであってはいけない。

 

    話が逸れたけど、バンドは同じ音楽を一緒に作り上げていく点で心の交流が生まれてしまうし、一緒にいる時間が長く、さらにどちらかの性数に偏りがあれば、まず誰か一人くらいはメンバーに対して恋とかいう性欲を抱くに違いない、厄介なコミュニティである。

 恋仲になって良い音楽が作れるわけがない。音楽をみんなで作るとは、ときにいがみ合うことであり、憎み合うことであり、そういう経験を経て洗練されていくからだ。愛し合うだけじゃ、甘い蜜だけじゃ、心の深くまで潜っていくことは難しい。リスナーは他人の「恋人といちゃいちゃして楽しいでーす!うふふ」って曲ばかりでは離れてしまうだろう。

 

 バンドメンバーはバンドメンバーでしかなければ、続きようもない。遊びではないから。

    そこでメンバーに手を出してしまうなんて、ましてやちんちんを出してしまうなんて、それはもう、ほとんどそのバンドを捨てる覚悟に等しい。

    バンドを解散して、ユニットを組んだ方がいい。

    あるいは、別々のバンドであった方がいい。

 

    人間はすべてを手に入れることはできないのだ。

    それは夢でしかない。

 

 

    でも、夢を追わなきゃバンドじゃねぇ。

    うるさい奴らは全員ギターで殴ろう。グレッチで。