蟻は今日も迷路を作って

くだくだ考えては出口のない迷路に陥っている

言葉は声に出すと"力"を得る

  連休明けの朝、テンションが高い人間など存在しない。

    例に漏れず、私は朝から下痢便みたいな顔して朝食の温泉まんじゅうをかじっていた。まったく飲み込めない。だいたいどうして朝から饅頭なのだ。

 

    こんな思いをするくらいなら三連休なんてなければいいのに、と思って、いやいや、三連休が毎週あればいいのに、と訂正するのだった。

    この世のあらゆる悲しみを煮詰めた顔して私は、ため息と混じって「行きたくねぇな」と呟きそうになって、口を抑える。

    言葉とは不思議なもので、思っているだけなら心に響くものではないのに、口に出してしまうと、自分の口から出た言葉が自分の耳に入って、脳髄を悪寒のごとく走り、心に反響する。エコーして、ディレイがかかって、心の中の四方八方を跳ね回る。

    「行きたくねぇな」と呟いてしまうと、本当に行きたくなくなってしまう。

    体調が悪くなり、四肢が重くなり、背中にじっとりとくさい汗をかく。   

    だから、自分を貶めるようなマイナスな言葉ほど吐き出すときは注意が必要なのだ。その言葉はあなた自身を体の端から骨を潰していくように蝕み、いつか脊髄を折るだろう。

 

    だけど、言葉のこの効果は、うまく利用すればプラスにもはたらく。

    どんなにつらくても、頑張ろう!頑張れおれ!と口にすれば、奮い立たせることができるのだ。

    まさかそんな単純なわけない、と思われるだろうが、その通りで、単純な人間にしか効かない。私はちょっとだけ、効く。

 

    ため息と一緒に出そうだったマイナス発言を堪えて、私は「がんばるぞー」と静かに言って、頷いた。

    ……まだ足りなかったので、3回言った。

    そうしてなんとか家を出ることができて、駅へ向かう道中、何度も「がんばれ、おれ」とぶつぶつ唱えた。

 

f:id:arimeiro:20190924195509j:image

 

    これは漫画『鬼滅の刃』のワンシーンである。

    主人公(画像の男の子)である炭治郎はこのとき、先の戦闘での骨折を含む負傷を抱えながら、強敵と戦わねばならなかった。

    疲労がたまり、全身に激痛が走り、強敵の能力に絶望して心まで折られそうになっていた。

    だけど、炭治郎は諦めない。

    画像のように、言葉で自分を奮い立たせて再び刀を握りしめるのだ。

 

    私はこのシーンが好きだ。

    ここを読むと、なんだか頑張ろうって気になる。

    炭治郎は単純な人間だけど、真面目で素直でとても強い。心が強い。その強さを裏付けるのは、使命感と本当の悲しみを知っている過去だ。そして教えてくれるのは、心の強さとは優しさであるということで、彼の優しさに、味方ならず敵までもいつしか心を救われる。

    大絶賛どハマりしている鬼滅の刃の話になってしまったけど、めちゃくちゃ泣けるし面白いし文学的でもあるので、まだ読んでいない人は読むべきだ。アニメもやってる。

 

 

    とにかくこのようにして、私は朝の通勤路、ぶつぶつ自分を奮い立たせていたのだ。

 

    頑張れ、おれ、頑張れ!

    おれが挫けることは絶対にない!

 

 

 

    そうしてなんとか、週明けの1日を終えたわけである。よくやった。