スマホ版ゲームで「マリオカートツアー」がリリースされ、早速私もダウンロードしてシコシコドリフトしているのだけど、難しい。
操作に慣れるまでにはまだ時間がかかりそうだし、つまりそれは練習を要する。
50ccでようやくカーブをうまく曲がれるようになったが、まだまだだ。
ああ、懐かしいな、と思いながら壁に衝突する。
というのも、私はマリオカートDS世代であり、誰からも呼ばれなかったけど、当時は「マリカの蟻ちゃん」と呼ばれなかったものだ。
近所に通信対戦をやってくれる友だちが一人もいなかったので、部屋でひとり、コソコソシコシコドリフトしていた。
その結果、マリカDSを、極めてしまった。
本当に極めた。
肉体がコースを覚えるくらいやっていたので、CPUではもはや相手にもならず、ほんとうにごくたまに友だちと通信対戦をしたときに、あまりにも圧倒してしまって、自分がいかにマリカキチガイなのか知るところとなった。
そのくらいやっていた私であったが、Wiiもスイッチも持っていないのでそれ以降のマリカはやったことがなく、以来、身を引いていた。
大学に入って、友だちの家でマリカWiiをやったらコースが全然違って実力を発揮できなかったのだが、Wiiに入っていたDSのコースで遊んだらやはり他を圧倒した。
完全に、肉体にマリカDSが沁み込んでいたのだ。
なので、スマホでマリオカートをやっていて、今は操作とコースに慣れず、壁に激突しまくっていても「そうそう、マリカの初心者はこういう気持ちだった……今はこれでいい……」と達観した気持ちでプレイできる。
『GANTZ』で和泉君が再びGANTZのメンバーとして召集され、忘れていたはずの戦い方の記憶と興奮を探りながら星人を倒していく感覚に近いかもしれない。この喩えは全然ピンとこない人が多いかもしれない。
「今はこれでいい……今は思い出せ……感覚を」
そう私のマリカ細胞記憶が呟いている。
会社の休み時間にもずっとやっていて、家に帰ってからもずっとやっている。
充電と通信料と時間を吸い取られる。
「今はこれでいい……」キオクの言うがままに私はシコシコドリフトする。
マリカ好きの中には、「マリオカートツアー」のコレジャナイ感を拭えない者もいるだろう。
自然な反応だと思う。
だってこれはマリカ本来の操作とは全く異なる。指を放しても直進するし、コースガイドがあってコース外に落ちることなんて滅多にないし、マリカのニセモノと言われても仕方がない気がする。
だけど、根底にはマリカ細胞記憶をガッシリ掴むものがあり、本質は大昔からのマリカと違わないように思う。
「今はこれでいい……」
懐かしさとワクワクがそう呟いて、私に画面をシコシコ擦らせ、ドリフトさせる。