蟻は今日も迷路を作って

くだくだ考えては出口のない迷路に陥っている

火のないところで炎上する

 官房長官が数千円の高級パンケーキを食べていたことで炎上してしまったが、しかしながら見かけるツイートは「激務の公職者がたまのパンケーキを食べたっていいだろ別に!」という炎上に対する批判意見、いわゆる逆炎上ばかりで、はたしてほんとうにパンケーキを食べただけで「けしからん」と炎上した者がいたのか怪しくなってきた。

 本当は炎上していないのではないか。

 実際、パンケーキを食べたことに対して怒った人(まともではない人たちである)は数人でしかなく、その数人を鬼の首を取ったとばかり騒ぎ非難する数十人がいて、その向こうに、炎上非難者に煽りを受けてろくに炎上元を確認せず大騒ぎする野次者(野次馬という言葉を使いたいのだが、馬が可哀相である)が数千人規模でいるような様相であり、まったく気色悪い。

 どうしてインターネットの情報をすぐに鵜呑みにして軽々に言葉を発してしまうのだろう。

 年寄りはともかく、情報教育をまともに受けた世代は教科書にもそれがどれだけ危険なことなのか書いてあったはずである。授業を聞いていなかったのだろうか。寝るな。

 

 以前にも似たようなことがあった。

 女子高生がバイトして中古の軽自動車を購入した旨のツイートに対し、「女子高生が車なんか買うなけしからん」と言った者がいて、それに対し「いいだろ彼女は努力をして車を買ったんだしとやかく言うな」と逆炎上した件である。

 流れてくるツイートは後者の「とやかく言うな派」の意見ばかりで、「けしからん派」の意見はまったく見受けられなかった。

 まったく見受けられなかったので、私は探した。けしからん派を。

 だがどれだけ探しても、元ツイートが消されたのか見当たらず、画像引用もされておらず、これはおかしいなと思い始めた。

 すると、「この炎上の元ツイートは存在していなくて、ない意見に勝手に逆炎上してるだけだ」という私と似た見解を示すツイートがそこかしこで見受けられた。

 そうなのだ。

 火のないところで炎上していたのだ。 

 

 

 そんな風に、虚無に対して脅威の虚像を作って勝手に盛りあがり逆炎上する人間という生き物の想像力は、おもしろい。

 この力を利用してたとえばなにか広告収入を得られやしまいか、この着眼点はビジネスチャンスだと思う(炎上しそうな意見だ)。

 

 人間はそんな愚かなところが可愛いのだけど、ただ、怖くもある。

 思い過ごしの暴走した想像力は止めることができず、反転して脅威に変わる。

 その中で自分の意見が大多数派だったり、権威者が自分の意見を認めてくれると自分の立場が「正義」と勘違いしてしまって、容疑者を吊るし上げて市中に晒し、足元から火で炙りながらその妻をレイプするところを見せしめ、四肢と局部と鼻と耳を削ぎ、目を抉る、そんな残虐行為を笑いながら平気でやるようになる。

 そして言うのだ。「こいつは悪党なんだよ。こうされて当然なんだよ」と。

 その「ショウ」を悦びながら観覧している人々。

 結局、いつの時代も、人間は広場の公開処刑が好きなのだ。関係のない私たちにとって「悪」が裁かれることは、自分の立場を肯定してくれるのだから気持ちが良い。「正義」の肯定感は甘い味がする。

 まったく、愚かで汚い。

 

 

 こうして、人類への憎悪を暴走した想像力で逆炎上させた私もまた、孤独な肯定感に気持ちよく浸っている。

 群れるより孤高でありたい。その方が格好良いというそれだけの理由で。