蟻は今日も迷路を作って

くだくだ考えては出口のない迷路に陥っている

白くて細くてしなやかな、

  髪。

    幼い頃から耳の上に数本、白髪があった。

「天才の証だ」と大人たちは言うけど、その説が間違っていることを私は証明してしまった。

    私のいとこも若白髪の人で、この人は大手自動車メーカーのエンジニアになって現在は管理職で活躍しており(情報番組に出てエンジンの解説をしたことだってある)まともで優秀な脳味噌を持っているから、彼の場合は「天才の証」と言ってもいいかもしれない。

    だが私の場合、ちょっと白髪が可愛いだけだ。自分で言うな。

 

   中学生くらいまではその数本の白髪を可愛がっていたものの、成長するにつれてそこから白い領土を拡大していき、髪が伸びると耳の上が白と黒のまだら模様になるようになってしまった。気持ちが悪い。喪属性。そんな感じだ。

    大学生になると白髪は突然前髪から湧いてくるようになった。

    1本だったものが2本、3本と増え、社会人となった現在では探すまでもなく白髪は常にそこに見つけられるほどの量になり、たまに抜け毛だと思うと白髪なので、やれやれとなる。珍しくもない。

    見えないほどに真っ白なもの、半分だけ白いもの、変色して薄い茶色のもの、さまざまなバリエーションがあり、面白くもなんともない。

 

    この白髪たち、悩みのタネと言うほどでもないのだけど、ふと鏡で見たときに目立つし、白髪のせいで実年齢より老けて見えるので厄介だ。

    ストレスで白髪が増えてるんじゃないかと心配されることもあり、申し訳ない。たしかにストレスはあるけれども(否定はしない)、ストレスのせいで白髪が増えたのではなく、これは体質、遺伝なのだ。

    いっそ黒染めした方がいいのではないかと思うのだが、私はまだ23歳で、白髪を隠すために染めるというのもなんだか悲しいものだ。この悲しみは私だけのものだろう。

    まあ、悩んではいないし、気に入ってないわけでもないから(ある意味チャームポイントだと思う)、別にいいのだけども。

 

    SNOWみたいな盛れるカメラアプリはいくつも存在するけど、それらは肌を綺麗に見せてくれる代わりに、私の白髪を浮き立たせる。

    明度の高い「白」を強調してくるのだ。

    なので、肌はツルツルで目はキラキラしているのに、髪はひどい白髪混じりで、見た目の年齢がバグを起こす。シワだけじゃなくて白髪も消せよ。

    

    

    だけど、この白髪たち、いいなぁと思えることがある。やっぱりそれは例によって恋人のおかげなのだが、私が寝転んでいると彼女がそそそと寄ってきて、私の頭を膝にのせ、ぷちぷち白髪を抜いていく。

  「痛いよ」と言ってから、抜いてくれる。

    なんだかその時間は温かくて、しんみりと幸せを染み込ませたパンケーキのように甘い時間だ。

    白髪があってよかったなぁとその時は思える。

 

 

    ただ、抜いた白髪の束を見て、毎度戦慄するが。