年末調整とは何かというと、よくわからないのだが、1年間、国や保険会社に対して支払ってきた金が戻ってくるという、どう考えても頭のおかしい素晴らしいシステムである。
魔法か?
だけど、かっちりした提出書類にありがちなように、その記入は困難を極めるため、相当頭が良くないと完璧な書類を初見で作ることなんてできない。
年末調整の書類を作成した組織はおそらくとても頭が悪い。もしくは、とてつもなく底意地が悪い。
なんの説明もなく書けるものではないのでどこをどう記入するのか説明が書いてあるのだが、文字が小さく、難しい言葉遣いで、なんだか要領を得ず、結局自分はどこをどう書けばいいのか把握しきれない。それを一番教えてほしいのに、教えてくれない。
頭の弱者に対する配慮が行き届いていないし、老眼には苦しい文字の小ささだし、文章はどこか男尊女卑的で全体的にファシズムのニオイがする。きな臭い。
だいたい今どき紙なのもどうかと思う。
私は社会人一年目なので、この度人生初の年末調整だった。
なんとなく同期とノリで入ったガン保険が2万円程不当に給料から差し引かれていて、これは絶対に取り返さねばならないと復讐の念に燃えた。
だけど、どこをどう書けばよいのか、まったくわからぬ。
「保険会社からハガキが来ていると思うから、それに従って書けばなんとかなるよ」と先輩に教わったのだが、そんなハガキ来ていなかった。いや、捨てた。
私は保険会社や銀行、国からのハガキや通達はすべて封を開けずに捨てることにしているので、もしかしたらあのとき棄てたんだろうなぁと暗い心当たりがあった。ちなみになぜ捨てるのかと言うと、なんかムカつくからだ。以前それで面倒なことになった。
ハガキを捨てた自分のことは可愛いので棚に上げて、そもそもこの年末調整のわかりにくい書き方説明が悪い。
「絶対に書き間違いをさせてお前らに金を返さない」という強い意志を感じる。覚悟を感じる。
金をぶん捕るときは無言で搾取するくせに、返すときはめっちゃ渋るじゃん。小学校のときそういう男子がいて、人のものを勝手に使い、返すときは自分のだと言い張って愚図る、そいつはめちゃくちゃ嫌われてたよ。
小2でも書けるくらい簡単にすべきだ。
それでもまぁ、大学を出てるとだけあって思考力のある私は、いろいろと調べて記入すべきところに記入し、上司に提出した。
こういうの、バカにはきついだろうな、と提出した私は優越感すらあった。
上司はそのまま本社に提出した。数日前のことである。そして今日、本社の上長から私に電話がかかってきた。
「書き直して再提出ね」
返却された年末調整の、私が書いたところすべてに斜線が引かれ、訂正印を捺すように、と注意書きがなされ、本来書くべきところにうっすらと鉛筆で下書きがしてあった。本社の事務の方の心遣いである。
私の書いたところは、すべて誤っていた。
まず提出枚数が揃っていなかったし、住所も書いていなかった。保険も書く欄が違っていたし、計算も間違えていた。それを自信満々にあの日提出したのだ。
私は、優越感に浸ったあの日、鼻の穴を膨らませながら、「無」を提出したのだ。
「来年からはこのようなことがないように」と、怒気のある字体でメモが挟まっていた。
年末調整、バカとだらしがない奴にはかなりキツイ。