蟻は今日も迷路を作って

真面目な話からそうでない話まで。本当の話から嘘の話まで。蟻迷路(ありめいろ)という人が書いてます。

ロールケーキで殺されたい

  ロールされたケーキ。ロールケーキ。

 通常、ケーキは外側に生クリームが塗布されているが、ロールケーキの場合は内外が反転して内側が外側を巻き込み、生クリームは内側に封印されている。

 このような反転した食品は他にのり巻き寿司や、なんか、まぁ、他にパッとは思いつかないけども、いくつかある。

 料理をするのが人間である以上、そういったある種「型破り」を見せつけられると、人間てのはいろいろなことをやるおかしな生き物だなぁと微笑みを含みたくもなるけど、皆さんいかがだろうか?

 

 

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 こちらは蔵前のカフェエ「喫茶 半月」のロールケーキである。

 

tabelog.com

 

 菓子を売る一階のその上が喫茶店になっており、ここでは美味しいコーヒーやラテアート、ドリンク、アルコール、それから絶品のシュークリームとケーキなどを楽しめる。

 空間そのものがオシャレで、まず店内を写真に収めたくもなる。

 落ち着いた色どりの店内はドトールの対極と言ってもいいくらい広々としており、長いバーカウンターとテーブル席が十数席乃至は二十数席。

 席数こそ多くないものの、この広さなら自由に歩き回っても邪魔にはならないし(店員と客に不審な目で見られるだろうが)、ちょっとブレイクダンスを踊っても調度品を壊さないで済むだろう(店員と客に不審なまで見られるだろうし、追い出されるだろうけど)。

 また、混雑していても並ぶ客は階段下で待たされるので、カフェエを楽しむ人は並び客の「早くしろ」という怨念に曝されずにリラックスしてお友だちと薬師如来の話に花を咲かせることができるし、マルクスの『資本論』を心ゆくまで読むことができる。

 

 私は店紹介が下手くそか?

 

 まぁいい。

 

 過日、私は恋人とこの「半月」に行きロールケーキを食べたのだが(上に掲載した写真がそれである)、これがまぁ美味しかった。

 シンプルなロールケーキである。なんの遜色もなく誤魔化されていない。

 私の前に無防備にも置かれたロールケーキに、私はつい「エロいな……」と言ってしまった。

 恋人は私のこのような意味不明な言動に慣れているので「はいはい、エロいね」と流してくれたが、もしも深く知り合っていない知人だったら「もしかして変態?」と言われていただろう。断じて変態ではない。

 

 ロールケーキのなにがエロいのか?

 まずこの見た目の無垢さだ。

 一切の飾りがなく、なめらかに仕上がった小麦色の肌。健康的だ。薄くかかった粉砂糖がまるでレースの下着のように肌を隠しているさまが扇情的である。そして内包する生クリームの白さがまだ悦びを知らぬ生娘のそれを想起させる。

 このロールケーキはちゃんと成人済みだろうか?こんな姿で人前に出てきて大丈夫なのだろうか(法的に)?

 私はひとり、はらはらした。

 

 フォークの背で肌を撫でる(ロールケーキの肌を)。

 手に伝わってくる柔らかな弾力と無抵抗。それだけで、このロールケーキが確実に美味しいことがわかった。早く食べたいのだけど、フォークの背で肌を撫で続けてしまう。この世にはこういう種類の心地よさが存在することを知ってほしい。

 

ぼく「はやく食べたいな~」

恋人「食べなよ」

 

 なおも私は撫で続け、今度はフォークの先っちょで、つんつんしてみる。

 するとロールケーキはちょっとびくっとして、生まれて最初の刺激にやや嫌悪感のある目でこちらを見つめるけど、含みのある口元がほころんでいて可愛らしい。生クリームがこぼれそうになる。

 

ぼく「えっちすぎんかね。」

恋人「はやく食べなよ」

 

 私はとてもいけないことをしている気分になった。

 私がこれを食べたら犯罪になるのではないか?訴えられるのではないか?

 それならもう食べずに出て行こうか、とも思ったけど、意外や意外、ロールケーキは食べてほしそうに私を見つめ、誘っているではないか。

 やれやれ。この子はとんだ性悪だ。

 大人をからかうんじゃない。

 私は悲しい生き物だ。

 

 ここまで書いていて思ったのだけど、私はちょっと変態なのかもしれない。

 

 

 

 パファっとフォークをいれ、生クリームとともに愚口に運ぶ。

 

 うまぁ……

 

 うめぇ……

 

 うめぇ……

 

 まずその食感。弾力。ほどよくて完璧に調整されている。

 市販のロールケーキはスポンジ質の生地がもろもろと崩れてしまうことが多いけど、これはたしかな存在感を持っており、かといって主張しすぎるわけではなくて無抵抗主義、食べてて歯が喜んでいるのがわかる。こういうの好きだよな、歯。歯も「うん。好き」と言っている。

 そのほどよい弾力感が喉を通過するときにわずかに引っかかり、それがまた気持ちよい。

 ずっと飲んでたい。ロールケーキは飲み物です。

 だけどのどに詰まるというほどではなくて、そこがまた完全に調整されている所以。調整と言うよりもはや調教と言った方がいいかもしれない。

 するりと食べれてしまう最大の理由は、生クリームだ。

 なめらかで、甘すぎずおしとやかで、これを口に含んだとき、そうだった生クリームはミルクで出来ているんだという当たり前すぎて見過ごしがちだったことを思い出した。すこし感じる冷たさが切なくて、ずっと舐めていたい。生クリームも飲み物だ。

 

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  こうやって死にたい。

 ロールケーキまるまる一本を直に、口に突っ込んで、押し込まれて……ンググ……となりつつ……。

 いや、死にたくない。

 生きていればこそだ。

 

 うまぁ……

 

 うまぁ…………

 

 ……

 

 

 このロールケーキは甘すぎず、どちらかといえば素材の味を楽しめるものだったので、一緒に注文する飲み物は苦めのエスプレッソよりも甘いコーヒーやドリンクで、充分楽しめるだろう。

 カフェラテとか注文するとラテアートもやってくれるみたいなのでオススメです。

 

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