蟻は今日も迷路を作って

真面目な話からそうでない話まで。本当の話から嘘の話まで。蟻迷路(ありめいろ)という人が書いてます。

ガレットが思い出の食べ物でよかった

  宿でガレットを食べた。

    ガレットというのはフランスのクレープみたいなもので、スイーツではなく食事である。

    見たほうが早いだろう。

 

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    こういうやつ。

    なにか特別な小麦粉だか蕎麦粉だかを使っているのだろう、普通のクレープよりも生地がしっかりしていて浅黒い。

    こんなお洒落な食べ物、知らなくても恥じゃない。ただ都会ではこういったお洒落な食事がなんの特別感も感慨もなく当然のように消費されているので、田舎から出てきたばかりの村娘はびっくりするかもしれない。だけどそれは、恥じゃない。

    よし、田舎者を馬鹿にして筆が温まってきたぞ。がんがん今日のブログを書いていこう。(最低か)

 

 

    ↓

 

 

    ガレットを恋人と食べた最初は、今から3年以上前の、付き合って間もない頃だった。

    たぶん、付き合って1週間とかそんくらいだったろう。

    恋人は大学3年生、私は2年生だった。

    その日は2人とも午前中で講義が終わったので、新宿でなにかランチしようかということになって、それならガレットを食べたいとお洒落なものに敏感な恋人が提案した。今でもそうだけど、私は恋人の提案を無碍にしたことはない。彼女と2人でいられればなんだっていいのだ。

 

    その頃はまだ2人で並んで歩くと、大学の同級生に見つかるんじゃないかとか、ここで手を繋いだら恥ずかしいだろうかとか、そわそわしていろいろ考えてしまう時期だった。

    でも結局大胆で、手を繋いで歩いていたと思う。見つかっても知るか!って感じで、その頃から私たちは2人だけの国を持っていた。

    ガレットを食べるのだ。これから。その事実が美しく、嬉しい。

    初めて恋人と、恋人になってから初めてのランチをするのだ。それにガレットを選んだ。手を繋いで新宿南口を歩いた。

 

 

    付き合いたての頃の恋人は、サークルの先輩だったこともあってなんだかしっかり屋さんでキビキビしていてときどき可愛くて基本的にシュッとした印象であった。

    頭もいいし、友達も多いし、家庭環境も良さそうだし、浪人してないし、私と正反対の座標の人であった。よく私なんかと付き合ってくれてるよな、と不思議でさえあった。

    もちろん私は当時のそんなシュッとした恋人のことが好きだったけど、ちょっととっつきにくさがあったというか、この子で大丈夫だろうか、これから傷つけてしまうのではないかという不安があった。

    そんな心持ちだったからこそ、初ランチの局面は重要であった。

 

    しばらく並んで、店に入り、ガレットを注文した。提供されるまでの間、なんの話をしたかは覚えていない。覚えてないからたぶん大した話はしていない。講義のこととかフランス語の豆知識とかフランス語の嘘知識を吹聴していたのだろう。ガレットはフランス語で綴ると"galette"で、"lette"は「女の子」って意味をもち、"gal"が「包む」って意味を持つ接頭語なんだよ。私はこの手の嘘をつくのが得意だ。重要な局面で嘘をつくなよ。

 

    やがてガレットはやってきて、私たちの前にそれは眠るように横たわっていた。

    さくっとナイフを入れると思いのほか硬い。生地が薄いのにしっかりと存在感を持っていて、パリパリもちもちしている。

    具はピッツァでいうビスマルクで、目玉焼き、ポテト、ベーコン、チーズ、コショウ……シンプルだけど嫌味がなくてご機嫌な味がする。マーチでも行進したくなる。

    私はざくざく切っては食べ、喋るのもそこそこに食事に集中した。それだけこのガレットは美味しかったし、食べるのが難しくもあった。硬く、どこからどう切り分けて食べるのが正解かよくわからないのだ。

   一方で 恋人は、ガレットを食べるのに相当苦戦していた。

    ナイフとフォークの使い方が甘いのか、単に力がないのか、ガレットを初めて食べるからどこを切ればいいのかわからなかったのか、ともかくガレットに苦戦していて、私が4分の3ほど食べたところで彼女はまだ5分の1くらいしか食べていなかった。

    唖然とした。

    あの、なんだか完璧で、さっぱりしてるイメージの恋人が、ガレット程度に苦戦して、涙目になって半笑いで顔を赤くしている。

「くっ…くっ……くくっ…全然切れない…」恋人は恥ずかしそうに言った。

    なんだかそれがおかしくて、可愛くて、その人の自然の姿を見た気がして、実際にそれが自然の姿で、私はこのとき安心してこの人と恋人になって大丈夫だと思った。

 

    結局あの日のあのガレットは、相当時間をかけて私が切り分けるのを手伝ったのだったなぁ。

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          (今日食べたデザートのクレープもシンプルでめちゃくちゃ美味しい。こういうのでいいんだよ。)

 

 

    ↓

 

 

    今日、付き合って3年以上経った私たちはまたあの店でガレットを食べた。

    美味しい。3年数ヶ月前と変わらず美味しい。たぶん、ここのガレットがいちばん美味しい。

    ざくざく切り分けて口に運びながら、3年数ヶ月という月日の長さと短さを想った。変わったことと変わらなかったことが良くも悪くもいくつかある。

   「あの頃よりかは上手く食べれるようになったと思わない?」

    私が4分の3ほど食べたところで、恋人は5分の2ほど食べていた。

 

 良かったことのひとつとして、3年数か月という年月が二人のものとしてここにあり、またガレットを食べることができたことだ。

 

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