蟻は今日も迷路を作って

くだくだ考えては出口のない迷路に陥っている

落下に身を任せて

  ェット・コースターに乗るべき時が来たんだな。何の脈絡もなく、そう思った。

    思い込みは激しい方で、一度そうと決めたらすぐさま行動しないと気が済まない、が、大人のさまざまな都合があって、ジェット・コースターに搭乗しようと思ってから1ヶ月、ようやく今日乗れた。

 

    どうしてジェット・コースターに乗ろうなどと思ったのだろう?

    私はどちらかと言えば絶叫系アトラクチョンが苦手で、回転木馬や観覧大車輪くらいしか楽しめず、というか遊園地自体昔から嫌いで(なぜならあそこは欺瞞で溢れているから)、ジェット・コースターなんて恐ろしいアトラクチョンを楽しむ人たちはよっぽどの馬鹿なんだなと思っていた。馬鹿と煙は高いところが好きだと言うし。

    ジェット・コースターが好きな人は希死念慮が強い人たちなんだろうな。そう決めつけて(思い込みは激しい方なのだ)、なんかその人たちの浅ましさがかえってバカバカしく、呆れてしまった。

    ここまでの悪口はすべて、ジェット・コースターにビビりまくった末に出てきた難癖なので、ジェット・コースターが好きな人も嫌いな人も無視してくれて結構です。

 

    そう、正直言って、ジェット・コースターは怖い。

    なぜジェット・コースターが怖いのかわざわざ書くことはしまい。高くて、速くて、落ちるから怖いのだ。低くて遅くて平坦なジェット・コースターがあったらそれはベビーカーだろう。つまらないけど便利だ。

 

    ここまでこう書いてきたわけだから、私がジェット・コースターを苦手であることは おわかりいただけただろう。

    ジェット・コースターに偏見を抱き、乗れば恐怖し、一度も楽しめたことがない。

    それにも関わらず、私はある日唐突に、「ジェット・コースターに乗ろう」と思った。口に出したら、恋人に「なにがあったの?」と言われた。なにがあったのだろう。私こそ知りたい。

「今すぐ乗りたい。ものすごく乗りたい」となった。

「どうかしちゃったの?」

    なぜなのかはわからない。どうかしちゃったのかもしれない。

    

    人生において ときどきこういったことがある。

    今まで苦手としていたもの、できなかったこと、食べれなかったものを前にしたとき、急に「今ならできる」と確信するのだ。

    失敗をする気がまったくしなくて、成功の確信があり、栄光の未来を思い描ける。

「人生がまた一段、次の階段を昇るのだろう。次のステージへ行くのだろう」

    そう思える瞬間がある。

    そこに根拠はないけど、とにかく自信があって、唐突が過ぎ、過去の全てを否定するような勢いがある。

    今回このジェット・コースター克服についてもそうだった。

 

 

    ↓

 

 

    やって来たのは、東京ドームシティのジェット・コースター「サンダードルフィン」。すごい名前だ。小学生に公募したのかな。

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    落差80mくらい、スタンダードなジェット・コースターで、コース上、ビルに開けた穴を通り抜けたり、観覧大車輪の輪をくぐったりするユーモアがウリだ。好きです、そういうの。

    都内の絶叫アトラクチョンの中では怖いと専らのウワサ。

    おれは今回、これに乗った。独りで。

 

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     乗るぞ!

 

    ↓

 

    乗った。

    あっという間であった。

 

    もちろん、ガタンガタン頂上に昇り詰めるまで緊張してドキドキしていたけど、恐怖というものは一切なくて、「これは楽しめるぞ」という期待しかなかった。

    不思議だ。

    この間まで、ジェット・コースターなんて乗りたくもないと思っていたのに。

    念仏を唱える間もなく、乗り物は落下をはじめる。きゃあ、きゃあ、と前から順に次々と、悲鳴が轟く。わずか0.5秒くらいの間に時間が凝縮されて、「次々と」なんて書ける精神の余裕が生まれる。

    不思議だ。

    物凄い落下、速度、体が浮く、声が出る、声が出ない、息が止まる、空の次に地面が見える、おれは今ジェット・コースターに乗っている、おれは今、ジェット・コースターを楽しんでいる。

    不思議だ。

 

    あっという間に楽しい時間は終わった。

    余韻が残ってる。興奮の余韻だ。

    肩の荷が降りたような、なんか体が軽くてウキウキした。ジェット・コースターには除霊効果もあるのかもしれない。

    不思議だ。

    次来たときも絶対に乗ろう。

 

    時にはこうやって、衝動と勢いに身を任せた方が楽しい。