蟻は今日も迷路を作って

真面目な話からそうでない話まで。本当の話から嘘の話まで。蟻迷路(ありめいろ)という人が書いてます。

「地下謎への招待状2019」に参加した僕ら

  「私は今、"謎"に飢えているの」

 土曜の夜に恋人がそう言った。わけではないけど、ちょうどいいデートコースを見つけたというので聞いてみたら、それは東京メトロが開催している謎解きイベント「地下謎への招待状2019」のことで、いったいこれがなんなのか、東京メトロはなにをしたいのか、謎とはいったいどういうことなのだろうか、という大したことのない謎を抱えてしまった私はそれを解明する気もなく、どうせ行くところもないマンネリ気味な最近のデートだったからこりゃいいやと思って、恋人と二人、日曜日に謎へ潜った。

 

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 謎解きイベントなんて参加したことがない。

 ようするに東京メトロのいたる駅にナゾナゾが仕掛けてあり、それを解くことで次の駅へ導かれ、ついでに下車した駅でカフェへ立ち寄ったり雑貨屋を覗くなどして「知らなかった東京」に触れることができるのだろう。

 謎とは、どのくらいのレベルなのだろうか。

 前知識もなく、とりあえず定期券売り場で謎解きキットを購入し、恋人と早速第一問へ取り掛かった。

 

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 第一問は丸ノ内線新宿駅改札付近に設置されており、すでに数十名の回答者がたむろして謎解きに興じている。

 人は謎に飢えているのかもしれない。

 いまや手元のGoogleで宇宙の誕生の経緯すらも知ることができる時代、私たちは「知らない」を、「思考」を、求めている。

 第一問はそこまで難しくなくて、ぱんぱんと手を叩くようにして解き終えた。

 この程度の問題が続くなら安心だ。馬鹿を露呈させることなく恋人の前で格好つけていられる。

 大問は全4問あって、それぞれ前の問題の解答をすると次のステージへ進めるよう工夫されている。

 第一問を解いた私たちは、次なる二問めの駅へ向かった。駅の選択肢は6つあり、そのうちから2つ選ぶことで難易度ごとに設定された問題を解くことができる。

 若干、ここから先はネタバレになるのでこれから参加しようとする人は気を付けてほしい。

 

 私たちが選んだのは神楽坂(かぐらざか)駅と湯島(ゆしま)駅だった。

 神楽坂はなんかオシャレで美味しいランチを食べられそうだからという理由で、そして湯島は「高難易度の問題がある」という理由で選んだ。

 湯島の問題ページに「これは本当に難しい」と書いてあり、回答目安時間も「60分~」と書いてあった。

 最高でも60分かかるのではない。

 最低でも60分かかる問題なのだ。

 しかし私たちは、まったく恐れていなかった。

「これが高難易度と知ってしまったら、たとえ他の駅を選んだとしても、湯島の問題はどれだけ難しかったのだろうと一生気になる気がする」

「僕たちは大学を出ているわけだし、頭は良くないかもしれないけど馬鹿でもない」

「湯島は上野に近い。上野は私たちもよく行く街だ」

「この高難易度(笑)とやらに正解できたら、あとはもうお茶の子サイサイであろう」

 私たちは、まったく恐れていなかった。

 今思えばあの妙な自信の根拠はまったくなくて、この現象はノー勉強にもかかわらず臨んだ試験を前にして満点はとれなくても8割はかたいだろうと思えてくるあの現象に似ていた。

 

 神楽坂でランチに舌鼓を打ち、さっさとそこの問題を解いて、湯島へ向かった。

 湯島で問題を解きはじめる。簡単な穴埋めだった。街を歩いて、指示された景色から暗号の穴埋めをするのだ。

 楽勝。

 そう思って暗号文の下を見ると、「ここから先はどこか落ち着いて考えられるカフェなどに入ってじっくり考えるべきだ」といったことが書かれていた。まだまだ湯島の問題はつづくのだ。

 私たちは、意を構えてカフェへ向かった。

 

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(カフェ:うさぎやCAFEのめちゃくちゃ美味しいどら焼き。食べてていろんな意味で頭がおかしくなりそうだった)

 

 私たちはどら焼きを食べながら、その難問に挑んだ。

 

 開始5分くらいは「おっ、いけそう」「いけるいける」などと思っていたが、10分経って15分経って、しだいに青ざめた。

 それだけ考えていたのに、この謎解きにまったくなんの足掛かりもないことがわかったのだ。

 なんだこれ。めちゃくちゃ難しいじゃないか。

 めちゃくちゃ美味しいどら焼きの味がだんだんしなくなってきた。美味しいのに、なんか印象に残っていない。勿体ない。難問に頭を抱えながら食べてよいものなんてなにひとつなかったのだ。(また今度行きたい)

 

 30分ほど二人で頭を抱えて、ようやく考え方の道筋を掴めた。

 だけど、考え方がわかったからといってもすんなりいくものではない。まるで森の地面の下にある木の根が絡み合ってるのを、地面を掘らないでスケッチするみたいに難しいのだ。

 それでもなんとか解きすすめていったが、途中で回答が破綻していることに気付き、詰んだ。

 ついに私たちは「ヒント」を見ることになった。この謎ときにはサイト上に、行き詰ったときに参照できるヒントが提供されているのだ。

 そのヒントを見たら、私たちと同じ考え方を提供していただけで絶望した。なんのヒントにもなっていない。

 ただただ時間は過ぎていき、寒さは深まるばかりであった。

 

 

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 15時過ぎからその難問に取り組み始めて、カフェからカフェへ移動し、いまや19時ちかくになっていた。

 私たちは、4時間もかけて湯島のその問題を、数あるヒントを参照しつつ、ほとんどカンニングするみたいにして、解いた。

 

 敗北。

 

 その一言に尽きる。降参だった。

 まだ大問は2問残っているのに、時間は19時をまわり、もはや次へ進むことはできなかった。ギブアップ。負けだった。

 でも他の問題は簡単かもしれない、と思ってためしに取り組んでみたら全然解けなくて、私たちは4時間も脳をフル回転させてヘトヘトであることに思い当たった。

 時間的にも、疲労的にも、そして認めたくないが能力的にも、ここで終わりだった。

 

 恋人は悔しそうな顔をした。憤ってさえいた。

 私はもともとゴールにこだわっていなかったので、残念だとも思わなかったけど、またひとつできなかったことが増えてしまったというそのことが悲しかった。

 私は成功体験でしか前へ進めないのだ。

 私たちは湯島を選ぶべきではなかった。身の程を知るべきだった。あるいは60分経った時点で半分も解答できていないのなら、諦めて他の問題のある駅へ移動すべきだったのだ。

 失敗体験は次へいかされるかもしれない。ただし、次があればの話だが。

 あらぬ暴言を思いつくだけ吐き出したくなった。だから恋人の手を強く握って、上野の街を歩いた。とても寒かった。

 

 私も悔しかったのだ。

 

 

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 だから謎ときにはいつかリベンジするとして、このデートにはいくつか素敵な発見もあったことを最後に書いておきたい。

 普段降りない駅で降りると素敵なお店が見つかって、美味しい思いができるということ。

 東京は狭くてごちゃごちゃしているけど、なんでもあるし密度が濃いということ。

 それから、恋人と二人で悩むのはなんだかとても楽しいということ。

 

 私たちはこれからも多くの謎や難問につきあたり、二人の問題を解こうとするだろう。