蟻は今日も迷路を作って

くだくだ考えては出口のない迷路に陥っている

「みすず学苑」CMの魅力

  年に何回かおとずれるマイブームがある。

 グミばっかり食べてしまうグミブームや、YMOばかり聴いてしまうYMOブーム、そしてみすず学苑(がくえん)のCMばかり見てしまうみすず学苑CMブームだ。

 

 

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 首都圏に住んでいない人は「みすず学苑」とはなんなのかわからないだろう。

 決して、女学生の格好をした成人女性が成人男性と個室で恋愛関係に陥り即座に肉体関係を結ぶものの数時間で破局をしてしまうテイのフーゾク的な店のことではない。

 みすず学苑とは、学習塾である。

 正確に言うならば、大学予備校である。

 

 

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 とりあえず上の広告を見てほしい。

 そう、信じがたいかもしれないが、これは「広告」なのである。

 ヤマトタケルとウニ、フグ、カニに扮した人々、荒波と降り注ぐ「プリン」、極彩色の鳥、そして野太いフォントの「怒濤の英語と個人指導!」。

 情報量が多すぎるし、それぞれのキャラクターと背景の不条理ともいえるほどの関連性の無さ、論理的とか意味といったものから逸脱したこの広告は、驚くべきことに首都圏を走るJR線の車内広告なのである。

 わざわざ探さなくても、2日にいっぺん見るくらいの頻度で掲載されている。河合塾とか東進ハイスクールとか駿台予備校といった大手予備校の広告よりも目にする機会は多い。

 

 みすず学苑について調べてみると学苑長は宗教家の深見東州氏で、その時点でめちゃくちゃ怪しいのだが、職員が仮装しているという点も怪しさを極めており、校舎情報のページを見ていると、もしかしてこれは宇宙人が地球に馴染むための勉強をする塾なのかな、と思えてくる。

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校舎一覧 アーカイブ | 予備校なら怒濤の英語「みすず学苑」

 

 生徒の評判を見てもさまざまで、まぁこれは結局のところ志望校に合格した人と合格できなかった人とで評価は分かれるし、結局どの予備校に通っても勉強するのは自分自身なので、評価そのもので判断することはできない。

 ただ私が拝見した限りだと、「良くもないし悪いこともない」といった印象だ。

 

 

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 みすず学苑CMとはなにか。

 

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 とにもかくにも、この動画を見てほしい。(なんと「公式チャンネル」である)

 

 これがみすず学苑のCMの魅力を語る「すべて」です。

 

 私は休みの日、一連のみすず学苑CMをYouTubeで一時間おきに観て過ごしてしまった。気が付いたら日が暮れていて、途方にも暮れた。

 妙な中毒性がある。

 CMの内容は、動物や歴史上の人物や昔話の登場人物に扮した人々がダジャレを交えて(それもレベルの低い無理矢理感の否めないダジャレである)、科目や受験に関する悩みをおそらく吐露しているものとなっており、ところで「おそらく」と書いたのはもう数百回もみすず学苑CMを観ているにも関わらず内容がひとつも頭に入っていないからなのであるが、それはそうと、最後の4秒は必ず「怒濤の合格みすず学苑!怒涛の合格みすず学苑!怒涛の合格!」と連呼、背景にはプリンやキュウリが降り注ぎ、ヤマトタケルや縄文太郎(なんなんだ)が腕をガシッガシッとさながらアッパー・パンチのごとく振り上げるというまったくわけがわからないが、「怒濤の合格」だけが頭にこびりつくものとなっている。

 こうやって書いていると、私の頭がおかしくなったんじゃないかと思われそうですごく嫌だ。

 だけど、このわけのわからなさが、クセになる。

 

 人によってはすさまじい嫌悪感を示すだろうし、共感性羞恥で死ぬ人もいるかもしれない。

 下品だ。そう言う人もいるだろう。

 だけどみすず学苑のCMの魅力はその憎悪の感情を超えた先にあるもので、そこには不思議と、水色紫色縞模様に輝く太陽のような「陽」「気」で溢れている。その唯一無二の温度と深爪で皮膚を掻くようなほのかな痛みと苦痛、そして脳を支配する不条理と、「怒濤の合格」の連呼が洗脳的に快楽を供給する。

 

 たとえば、ブルーチーズという青カビの生えたチーズがある。

 これはあえて腐らせたチーズで、強烈な悪臭を放ち(炭鉱夫の履き古した靴下みたいなにおいがする)、いちど犬に嗅がせてみたら部屋中を吠えながら走った、そのくらいクサい食品である。

 味の方はじゃあ美味しいかというと、そうでもない。まぎれもなく炭鉱夫の靴下の味がする。

 子どもは食べれないだろうし、大人でも苦手と言う人は多いのだが、それでも古くから淘汰されずに今日まで残っているのには人を惹きつけてやまない「魅力」があるからだ。

 その「魅力」を知るにははブルーチーズのあのにおいと味の「クセ」を"嫌悪"から"娯楽"に心変わりすることでしか得られない。

 なにかを越えなければ到達できない愉悦なのだ。

 

 みすず学苑のCMの「魅力」はそうして獲得される種類の「魅力」である。

 

 こう書いて、私の頭がどうかしていると皆さんに思われるのは心外なので、今日は皆さんにもみすず学苑のCMの魅力を伝えたい次第なのである。はたして成功しているかは怪しい。

 これは言葉によって為されるものではなく、ひとりひとりが積極的にCMを鑑賞し、心の中でそれを楽しむ自分を発見できないと達成されえない。

 物事を楽しむにはその人の心の持つ素質や資質が必要なのである。

 

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(お気に入りのやつ。"怪人二十にメンドくさい"のくだりで必ず爆笑してしまう)

 

 

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 みすず学苑のCMで得られる情報は、ほとんどない

 「予備校である」ということだけである。

 なんなら「ヤバイ予備校である」ということだ。

 あれだけの情報量と勢いにもかかわらず、視聴者に残すものは「印象」だけで、しかしながら広告としてはそれで充分成功している。すごい。広告の「印象派」だ。むしろ「シュルレアリズム」ですらある。

 

youtu.be

 

 

 今朝、出勤中にプッチーニ誰も寝てはならぬが頭から離れなくて、何かと思ったらCMのBGMで使われていたのが脳にこびりついていただけだった。

「怒濤の合格みすず学苑!怒濤の合格みすず学苑!怒濤の合格みすず学苑!怒濤の合格みすず学苑!怒濤の合格みすず学苑!怒濤の合格みすず学苑!怒濤の合格みすず学苑!と心の中で詠唱しながら鏡の前で腕を振り上げていたら、妙に愉快な気持ちになった。休み時間に会社のトイレでやったら効果抜群で、ちょっと日課にしようかな、と思ってる。

 

 このように、みすず学苑は私の日常生活を蝕みつつある。

 すっかり虜(とりこ)だ。

 

 じゃあみすず学苑に通おうかな、と受験生時代の私が思ったかというと、まったく思わなかったのだから不思議なものである。