蟻は今日も迷路を作って

真面目な話からそうでない話まで。本当の話から嘘の話まで。蟻迷路(ありめいろ)という人が書いてます。

服を買うべきだ その1

 屋に行くと、恥ずかしくて顔が赤くなる。

 

    なに、やばい性癖(たとえば、ぶら下がる服を見ることで逆説的に裸体を想像してしまう・編まれた糸の集合体に織り込まれた人の念慮に興奮するなど)があるのではなく、私は服屋に行くと自分の存在そのものについて恥ずかしさを抱くのだ。

    なんて矮小で猥雑で愚かで醜い存在なのだろう、と思い始めていたたまれなくなる。

    これらの新しくて綺麗な服を着る資格ないな、その辺の古着屋でいちばん古い服を買うしかないな、ブックオフなのに服あるじゃんとか言ってほとんど雑巾みたいな服しか着れないのだな(※ブックオフにもちゃんとした服は売ってます)、服を着れるだけありがたいと思わなきゃな、などとドン底にひらひら落ちていく。

 

    昔から、ほんとうに昔から服屋が嫌いだったが、なぜ嫌いなのかわからなかった。

 つい先日、その謎が解けた。上記のように自己卑下して心がつらくなるからだとわかった。

    では、なぜ自己卑下してしまうのだろう?

 

    自己肯定感が低いからである。

 

    私は自分が自己肯定感強めだなぁと思って生きてきたのだけど、最近、そうではないことが発覚した。

    その発覚のひとつの契機が服屋だったのである。

 好きなアパレルブランドを見かけて、いいなぁ、こういう服を着て街を歩きたいな、と思ったときに「自分には価(あたい)しないな」とごく自然に至ってつらくなったのだ。

 

    自分に自信がないのは自分が無能であることを知っているからで、なんの才能もないくせに何かできそうな言葉遣いとなんとなくできてしまうせいもあって結果が伴わないと自分にも他人にもがっかりされ、それが嫌なら努力をすればいいのに努力できなくて、その点がまたほんとうに価値のない人間・自分のためにも他人のためにも存在できない人間だなぁと思え、そのくせプライドだけは高く、それがまたいやらしくて自分を嫌いになる。

    こんな人間いたら嫌だな。

    それが自分だった。

 

 

    自分の本性に向き合うのが怖かったから、そのカウンター(対抗措置)として私は「自己肯定感の強めなおれ」を装っていたのだろう。

    服屋をちょっと見たときに突如このことに思い当たり、目の前がクラクラした。

 カウンターとして用意した内なる鎧が砕けちったのだ。涙が出そうになった。世界を憎んだ。ここで世界を憎んだのも、自分自身を攻撃しないためのカウンターだと気付いて、なんだか自分を傷付けたくなった。

 

    このままでは自己卑下がさらに露呈してよけい痛い人になるし、肥大した自意識過剰が周囲を巻き込むことになってある意味自己中心的な人間になってしまう。もうなってる。やばい。

    どうすればいいのか?

    このままクソ面倒くさい、自分からも愛されない男になって、ほんとうに孤独のまま死んでしまうのだろうか?

    真面目系クズとしてなんの成果もなく、なんとなく生きてしまうのだろうか?ほとんど死んでるのと同じように。

    努力をできない、価値のない人間のまま、私は、、、どうすれば…………。

 

    なんとかしなきゃいかん。

 

 そう思った。

 

    こんな人間じゃあ、私のことを愛してくれている恋人に申し訳ない。

    もちろんありのままの私を愛してくれて嬉しいし、涙が出そうになるけど、私はなんというか、自分でも自分を愛せるようになって、恋人に堂々と愛されたいのだ。

    踏み絵的に私を愛していてはダメなのだ(誰に責められるわけではないけど)。

 

 

    どうすればいいか?

    考えた。

 

    そして思い至ったのが、服を買うべきだ、ということだった。

 

 

    自己卑下を隠すために用意した自己肯定感という偽りの鎧を打ち砕いた服屋に行き、着たい服を買い、身につけて街を歩くべきだ。

    今のままでは服屋にコンプレックスを抱いたままとなってしまう。私の貝殻を砕いた服屋という岩石を憎んでしまう。

    そして服屋を憎むことはまた自己卑下に通じ、その原因がそもそも自己卑下にあると因果の逆転が生じて心を病むに決まってる。

    ならば、服屋をまずは克服して、自分の心を救済してやるべきだ。

    服を買い、自身を持つべきだ。

 

    そう考えた私は、恋人と服を買いに行った。

    自己救済の一助となることを望んで服屋へ。もうひとつ別の目的もあって服屋へ行った。

 

 

(その2へ続く)

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