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服を買うべきだ その3~靴編~

arimeiro.hatenablog.com

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  前回、金銭と内面の問題に苦しみつつも、気に入ったシャーツとパンツ、ベルトを購入した私は、次にを買おうと思った。

 

 オシャレは足元から、とよく聞くし、これは逆に靴さえちゃんとしていればその他は多少曖昧な格好でもそれらしく見える、と解釈している私にとって靴はオシャレの重要なファクターである。

 

 私はいま、仕事以外で履く靴を一足しか持っていない。

 フラワーマウンテンというブランドの黒いスニーカーで、これは鎌倉で買ったものだが非常に素晴らしく、丈夫だしぜんぜん疲れないし且つめちゃくちゃ可愛いので重宝している。山登りもできるし、浜歩きもできるし、街歩きもできる優れモノなのだ。この世に歩けないところは水面だけじゃないかと思わせてくれるスニーカーだ。

 

 (おすすめのブランドなのでよかった見てほしい)

www.flower-mountain.co.jp

 

 なので私は1年以上、この靴を良しとして履き続けているのだが、前回買った服にははたして、このスニーカーに似合わない。

 スニーカーがややフォーマルな服に似合うことなんてないのだ。

 フォーマル寄りのカジュアルな革の靴が前々から欲しくもあったので、これをいい機会に買うことにした。

 

 

 目についた靴屋に入り探すも、ピンとくるものはなかなかない。

 服や靴を買う際、大事なのは出会いだ。好みじゃないのに無理矢理買ってもおもしろくない。と言っても今日中には買いたいからやや焦る。焦らずに「本質」を見極めることが要諦だ。

 服屋に比べたら、靴を選ぶ際そこまで卑屈にならないのはなぜだろうか?服を選ぶ時と違って、靴選びにはなにも後ろめたいものがなく、わりに楽しく選ぶことができる。

 たぶん、服と違って靴は踏みつけるものだからだろう。

 このような歪んだ深層心理が靴選びに気楽さを与えているのだ。なんて小さい器だろう。

 

 

  ↓

 

 

 ところで話は少し逸れるが、服選びの際も靴選びの際も、今回は店員に「お探しのものございましたら~」と声をかけられた。

 珍しいことだ。

 普段私はこういった店に入っても声をかけられることはまずない。

 だから欲しい服があったり、似合っているか他者の意見を聞きたいときは勇気を出して店員に声をかけなければならない。とても嫌だ。

 こっちは服を選んでいるのだから、がんがん声をかけてきてほしい。服を売りつけてほしい。アドヴァイスをしてほしいのに、店員は声をかけてこない。目が合ってようやくすり寄ってくるのだ。

 私はそんなに影が薄いのだろうか?

 それとも、近寄りがたい雰囲気なのだろうか?(高校生の頃担任に「人を殺しそうな眼をしてる」と言われたことがある)

 こっちは買う気マンマンで来ているのに、それがうまく伝わっていないのだろうか?

 いっさいは謎である。

 

 だが、今回は店に入ってすぐ、店員が声をかけてきたので驚いた。

 なぜだろう?

 たぶん、恋人が同伴しているからだろう。

 彼女がいることで、私から漂い出ているなにか昏(くら)いものが薄れるのだ。

 

 靴を買う際も恋人パワ~を頼りに声をかけられて、その調子に合わせていたらすいすい話が進んでいき、それでしたらこちらのお靴もお似合いになられるかと~と薦められ、履いてみたら気に入ってしまったんだからウケる。

 実際、とても可愛くて格好良い、まさに求めていた靴であったので、すぐさま購入した。

 値段を見ないで買ったので会計の際ヒヤヒヤしたが(ソ連から亡命したばかりで資本主義に慣れおらず金銭と物品を交換できるシステムを忘れがちなのだ(前回(その2)参照))、そこまでの値段ではなく良心的だったのでよかった。

 これからは値段を見てから買うようにしよう。

 

 

  ↓

 

 

 こうして一通りの衣服と靴を買うことができた私は、たいへん満足であった。

 これで心置きなく、堂々としていられるな。

 自己肯定感が上がったような気がした。服を買うのは大変だけど楽しいものだ。私たちは寒さから身を守るために服を着ているのではない。自分を好きであるために服を着るのだ。

 『吾輩は猫である』で猫が人間の歴史とは衣服の歴史であると述べていたことが骨身に沁みる。

 

 

「いい服をたくさん買えてよかったけど、いったい、どこに着ていくというの?」恋人は言った。

 私はまだ、この服をどこに着ていくのか、恋人にも読者の皆さんにも説明していなかった。

「君の御両親にご挨拶に行くときに着ていくよ。そのために買ったんだ」

 

 実は、3月に恋人の御両親に挨拶に行くことになった。

 

「そんな気を張らなくてもいいのに……」恋人はそう言うけど、私は気を張りたい。

 なにせ、大切な恋人の御両親に会いに行くのだ。

 ちゃんとした奴だと思われたいし、自分に自信を持っていたい。そうしないと、私自身にも、恋人にも、ご両親にも失礼だ。

 なにせ格好つけたい。

 恋人の御両親に会うのだから。

 

 今まで着ていたボロいセーターやチノパンで会うわけにはいかない。

 いい服を着て、ほんの少しでも自信があるようになって、ご挨拶したいじゃないか。

 

 

 

 そういうわけで、私は今回、服を買うべきだったのだ。

 

 

 (おわり)