「ヤンバルクイナってのは沖縄固有の鳥で、飛べないんだよ。飛べない鳥がどうなるかというと、歴史上の多くの飛べない鳥がそうであったように、絶滅の危機に瀕するんだ。ダチョウは走れるし、ペンギンは泳げるけど、ね。飛べないアイデンティティが種の絶滅に──」と、私がいつものように衒学趣味を恋人に晒していると、恋人は私の一言目で話を聞くのをやめ、歌いはじめた。
「ヤンバルクイナアンタンタイーラーアーイヤー」
私の話を聞かず歌いはじめたことに多少の遺憾を覚えたが、まぁお互いいつものことなのでよいとして、彼女は何を歌っているだろう?
それは替え歌のようだった。
「その曲ってさ、ヤンバルクイナって歌ってんの?」
「え?ちがうの?」
彼女はそれが替え歌だとも気付かず、歌っていたのであった。
メロディは私も聴いたことがあった。
たぶん、ビールか何かのCMの曲だ。ビールだったかはおぼつかないが、とにかく爽やかな熱量のある曲で、夏って感じがする。
「それ、絶対に最初ヤンバルクイナって歌ってないよ」
「えーヤンバルクイナだよ」
「メロディのリズムと合ってないじゃん。『クイナ』が若干字余りだし」
「たしかに」
恋人はすぐに納得してしまう。
その後も彼女はなにかと「ヤンバルクイナ」を歌っていて、耳についてしまった。
私もヤンバルクイナアウダララディッタンとテキトーに歌いながら運転をし、石垣島をウロチョロした。
「あ、ヤンバルクイナだ!」
見たこともない鳥を見付けるとそう指を差して、ヤンバルクイナを歌った。
陽気なことであるよ。
↓
「じっさい、なんて曲なんだろうね。本当の歌詞は何だろう。なんて言ってんだろう」
「たしかに」
気になった私たちは、ベッドの中でぬくぬくしながら、足を絡ませながら、スマホをいじって曲を調べた。
どのように調べればいいのだろう?
[ヤンバルクイナ 歌]
そう検索するとサーターアンダギーというグループの「ヤンバルクイナが飛んだ」という曲ばかりヒットする。一応聴いてみたが、ぜんぜん違った。
[ヤンバルクイナ 替え歌]
と検索してもやはりサーターアンダギーがヒットする。
元歌はおそらく洋楽なので、
[ヤンバルクイナ 洋楽]
と検索したが、とんちんかんな検索結果しか出てこない。
このまま検索しても永遠に出てこないだろう。
そこで、Shazamというアプリを使ってみることにした。
このアプリは知らない曲を聴かせると瞬時に検索して名前を教えてくれるという優れモノなのだ。
いかんせん、我々の鼻歌しか情報がないので検索できるか不安ではあったが、その不安は見事に的中して、このアプリはまったく使い物にならなかった。
「ヤンバルクイナふーんふんふふんふんふぅ~~~~~ん~~~~」
全然駄目である。
私たちが悪いのか、アプリが悪いのか。
両方とも悪いのだろう。
こうなったらYouTubeで片っ端からその曲の印象で探すしかない。
ヒントとなる印象は「ビールのCMで使われてた気がする」であった。
そう調べると、出てくる出てくる、歴代ビールCMの曲たちが。
「へぇ~この曲こんないい曲なんだね」
とか言って暢気にいろいろ聴いてみる。
『第三の男』とか『ボラーレ』とか、なにかとビールのCMは名曲が多い。
だけどこれじゃあ埒が明かないので、[ビール CM 洋楽]で検索してみる。出てきたものの内からタイトルでピンときたものを次々聴いていく。
メロディラインの、あの爽やかな熱い感じのするタイトルはなんだろう。ちょっと汗臭いかんじのタイトル……。
そうして探すこと数十分。。。
ついに見つけた。
皆さん、これが「ヤンバルクイナ」の歌です。
ニック・ウッドの『PASSION』という曲でした。
聴いてみると、ぜんぜんヤンバルクイナなんて言ってなかった。
「ヤン」とは歌ってたけど、それだけだ。
やっぱりヤンバルクイナの替え歌だったんだ。
発見した私たちはぴょんとベッドから起き上がり、うひょひょひょ、笑った。すごいすごい!なんて言って。すごいのはこの情報社会である。
ちなみに『PASSION』の歌詞にまったく意味はないらしく、テキトーらしい。
じゃあヤンバルクイナでもよさそうだ。