怒ってもいいことにする。
遣る瀬無い脅威に対する怒りはとりあえず政府に向ければいいのかもしれないけど、本質的にはそれだって誤っているとわかっている。
だからと言って、どこに対しても何ついても怒らないなんて、耐えられない。
誰かに責任をなすりつけたいわけでも、貶めたいわけでも、ましてや自分が貶められたわけでもないけど、今はただ言葉にすがって怒りを書き起こし、心落ち着けたい。
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休日は外出の自粛を要請し、平日はいつも通りの満員電車なので驚いてしまった。かく言う私も満員電車の一員だったのだが。
コロナ騒ぎでテレワークや時差通勤が推奨されてから朝の電車の混雑度は20パーセントくらい減った気がするけど、それでも満員であることには変わりないし、混雑具合としてはそこそこ人気のあるインディーズバンドのライブとそう変わらない。
帰りの電車の混雑具合は、時差通勤・テレワークが情報操作だったんじゃないかってくらい、今は懐かしき数か月前の平穏の日々とそう変わらない(5パーセントくらいは空いているけども、誤差レベルだ)。
コロナ・ウィルスはもしかして、平日は休んでくれるのだろうか?
それとも、定時があって、9時~17時にしか活動しないのだろうか?
満員電車で誰かの呼吸を肌に感じながら、あるいは誰かのくさめや咳を聞きながら、もしくは誰かの触れた手すりにつかまりながら、隣に潜伏期間の感染者が立っているかもしれないなか、もしかしたら自分がウィルスをばら撒いているかもしれない中、あらためて自分はどうして働いているのだろうと疑問に思う。
私の仕事は、要急の、命よりも大切なものなのだろうか?
たとえば、仕事が「誇り」の人はそうかもしれない。誰かの命を守ったり、みんなの生活をぎりぎりで支えている仕事だったら、なんとしてでも出勤せねばならないかもしれない。
だけど私の仕事はどうだろう?
あった方がいいけれど(継続していた方がいいけれど)、自分の命よりも大切な仕事だろうか?自信を持ってそう言えるだろうか?戦場へ逝く学徒のように胸を張って言えるだろうか?ぶつぶつとそんなことを考える。
コロナ騒ぎにかこつけてなんとなく休みたいなぁサボりたいなぁと思っていたものだけど、先週末からその思いは拭い消えて、シンプルに病原菌に感染する恐怖に晒されて出社を拒否したくなった。
私の仕事は出社しないとままならない。パソコンを設定したり機器を管理する仕事だからだ。大手メーカーの端末を管理している。
そのメーカー(ユーザー)の工場や物流が止まったら経済損失は計り知れないが、でもはっきり言って、命の危機に比べたらそこの商品なんて不要不急でしかない。
ただ、仕事は今日だって溢れんばかりにやってくる。
私のチームが麻痺すると社内の情報機能のいくつかがストップし、数十億円をかけた商談が中断され、あるいは商品の受注がままならなくなり……と影響が大きい。
だけど、そんなことがどうしたんだろう、と思う。
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病原菌に感染し、自分が苦しむぶんはまだいいけど、見ず知らずの人にもうつしてしまい、その人が重篤になり、命を損なったら?
私の家族に伝染ったら?母も妹も喘息持ちなので、最悪、恐ろしくてここには書けないことになるかもしれない。
恋人だって、誰かにウィルスを貰うかもしれない。彼女は接客業なのだ。感染リスクは私よりもずっと高い。
私がもしも感染して、死んでしまったら、残された家族や恋人はどれだけ悲しむだろう。私も成仏できないだろう。なにを呪えばいいのかもわからず、空の下を永劫彷徨うかもしれない。
最悪の未来を描く。
想定外はもはやあり得ない。
自分の命を守るために、仕事を放棄したい。
出社拒否したい。
ただそれをしたら私は、仕事をやめなければならなくなるだろう。
でも、命がけでするほどにこの仕事は大事なのだろうか?
「はい」という答えが私の胸の底から返ってこない。深い井戸みたいにぽかんとした穴が開いているだけだ。
感染するのが怖いし、命を守りたいので会社を休みます、と言ってなにが悪いのだろう。それこそ覚悟が足りないのだろうか?死の覚悟が足りないのだろうか?
足りないのだろう。
だけど、死ぬ覚悟ができている人を私はフィクションの中でしか見たことがない。死ぬ覚悟ができていなくてなにが悪いだろう。私は死ぬのが怖いのではなく、失う(喪う)のが怖いのだ。
出社拒否できる社会になればいいな。そんな社会なんてないのかな。命の危険を感じたから出社できないって甘えなのかな。
どうなんだろう。
わからない。
だからいっそ、政府が外出禁止令や非常事態宣言を出すとか、東京都が封鎖されればいいのに、と卑怯な事すら考える。自分可愛さの助かりたいがために。卑怯だ。自己中だ。自分が助かりたいだけじゃないか。
だけど、それのいったい何が悪いのだろう。
私は怒っている。
何に怒ればいいのかもわからないくらい、怒っている。
こうして書き出してみて、落ち着かないどころか涙すら出てきた。