猫が我が家にやって来てから早一か月が経った。
猫が家に来てからというもの、家の中の空気はどこか まどろんでトロリとした甘みが増し、明るくなっただけでなく、冬が終わったかのような暖かさを持って包まれ(実際もう春である)、家じゅうに響いていたラップ音はひそまり母の霊媒体質も軽くなったようである。
まぁ、そこまでの効能はもちろんないのだけど(母は霊媒体質でもない)、猫たちのおかげで家の空気はうまいこと循環して失われていた朗らかさが恢復したようである。
あながち冗談でもなく、猫には魔除の力があるのかもしれない。
猫たちにしても我が家に馴染んできて、各々好きなところで寝ていたり、猫じゃらし状の玩具を自ずから咥えて「遊びなさいよ」とねだるようになってきた。
ソファから手を垂らしていると、手のにおいを嗅ぎ、体を擦りつけてくる。
指を鼻先に近づけるとざらりとした細い舌でぺろぺろ舐めてきてくすぐったい。
食事も全部食べるようになったし、それなりにリラックスできているようだ。たいてい寝てるし。
ただ、犬と15年暮らしていた身からして、猫はちょっと寂しさを抱く生き物でもある。
人間が意識していないと人間に近付いて体を寄せたりするのに、こちらが近づいて触ろうとするとスイと体をくねらせて逃げるのだ。
玩具を物欲しげに眺めているときや、自分で持ってくるときはいっぱい遊んでくれるのだが、たとえば私が遊びたくて猫じゃらしを振っても猫たちは私にかまってくれない。
私は一人で床に這いつくばって玩具を揺らし、猫なで声を出して尻を振るが、それでも猫たちに無視されると玩具に興味を持たせるために猫じゃらしを用いて一人遊び(猫じゃらしを投げて取りに行く、猫じゃらしをスリッパから出し入れして笑う等)をするけども、猫たちは私を歯牙にもかけず、庭に咲く扁桃の花を眺めている。なんだかそのまま一句捻りそうな趣すらある。一方私は愚かだ。
犬は、私が遊ぶぞー!声を上げるとげらげら笑って駆け寄り、一緒に跳びはねてくれたものだった。
むしろ、私が遊びたくないときにもげらげら笑って顔を舐めまわしたり、股間のにおいを嗅いできたり、ゴミを漁って部屋を散らかすなどの狼藉を働いていた。犬だから犬藉である。
なんで股間のにおい嗅ぐんだ。
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犬と猫、どっちも違って、どっちもいいな、と思う。
猫派か犬派かって議論は有史以来決着を迎えていないけど、その理由がわかる。
どっちも違って、どっちもいいからだ。
どちらにも魅力があるし、どちらにも悪いところやペットとして面倒なところはある。
どちらの動物も魅力的で、優しくて、人間が彼らから学ぶべき姿勢は多くある。
それに、人間も男女で大まかな傾向はあっても個人で性質が異なるように、犬猫もそれぞれに傾向はあるものの、個々に性質と性格があって、結局魅力なんてのは一緒に過ごすうちにどれだけ許し合えるか(愛せるか)でわかってくるものだなぁと思った。
猫たちは自分が自分であることをよくわかっていて、自分らしくなければ、心から自分を受け入れてもらえないことをよくわかっているようだ。
このように、彼らから人間が学ぶべき姿勢はたくさんある。