蟻は今日も迷路を作って

くだくだ考えては出口のない迷路に陥っている

確実に未来は来ている

  恋人と同棲のための部屋を探した。

 3月に部屋を探し始めて、大体この街に住もうかと決めたあたりで外出自粛になり、以来部屋探しは断念していたのだが、先週の土日でついに不動産屋へ赴き、その日のうちに部屋が決まった。

 その日のうちに、というのはいくらなんでも早すぎる。

 大丈夫だろうか。……

 大丈夫なのだ。

 妙な自信があるのは、一人で決めたわけじゃなく、二人でここにしようと決め、二人で不安を分かち合い、二人で希望を抱いているからだ。

 

 実際、とてもよい物件で、奇跡的に見つかった、まさに「そうそう!こういう部屋で良いのよ!」という部屋だ。

 だけどこんなに早く決めてしまっていいのか。

 不動産屋に行かないと部屋は決められないから、とりあえず見かけた不動産屋になんとなく入ってみただけで、その日のうちに部屋を決めるつもりはなかったのだが。

 結局見つけた部屋の内覧をその日のうちに終え、そこしかないね、と恋人と話し、「お願いします」と決めた。

 不動産屋の仲介人のお姉さんは「決まるときは決まりますよ。こういうのは縁ですからね」と言った。

 導かれるように、私たちは二人の未来へ進んでいく。

 

 審査が通れば、7月末に引っ越しになる。

 うかうかしていられないので、荷物をまとめたり家具を買ったり準備がいる。だけどどうすればいいのかはよくわかっていない。なにからすればいいのだろう。浮かれていて冷静でもない。

 引っ越しには莫大なエネルギーが必要になる。

 以前、独り暮らしを始めたときは、引っ越しの翌日に段ボールまみれの冷たい部屋に起きて、「引っ越しなんてするんじゃなかった」と後悔したほどだ。

 引っ越しから実際の生活が回るまで一週間はかかるだろうし、今回は昔と違って平日は働いているわけだから、どうしても一か月くらいは慣れるまでに時間がかかるだろう。

 不安はあるけど、この不安は一人の不安ではないのだと思うと、後ろ向きにはならずに前向きな思考になる。

 私は恋人と暮らしていくのだ。

 

 引っ越す話を母と妹にした。

 前から、そのうちここを出て行くことになると話をしていたのだが、いよいよ部屋が決まるとなると現実性を帯びたらしく、ずいぶん急ね、と母は寂しさに泣き、妹はスネて自室にこもってしまった。

 一か月に一回くらい帰るよ。猫たちにも忘れられちゃうだろうし。そう言うと母は笑った。

 

 確実に未来は来ている。

 これからどうなるのかわからないけど、おそろしい不安なんてなくて、ただ前へ進む力がどこからか湧いてくる。

 大変な夏になりそうだ。

 だけど「やれやれ」という感じはしない。