蟻は今日も迷路を作って

真面目な話からそうでない話まで。本当の話から嘘の話まで。蟻迷路(ありめいろ)という人が書いてます。

幸せに爪弾かれて

  むかし使っていたギターを、いまは他の人が使っている。

 

 そのギターはエレアコ(エレキ・アコースティックギター)というギターで、アコースティックギターだがアンプに繋ぐことができる、というものだ。アンプからはアコギの音が増幅されて出てくる。

 そのギターを購入した当時高校生だった私は、買って一年くらい経ったころだろうか、メンテナンス中に部品を破損し、使えなくしてしまった。

 ピックアップと呼ばれる、音を拾ってアンプに電気信号を送る部品を引っこ抜き、基盤みたいな、ちょっとよくわからないのだが、それが外れ、元のかたちに戻してもアンプから音が出なくなったのだ。

 よくわからないのだが、調べてみると、その部品を破損させるとエレアコとしての生涯の幕を閉ざすレベルの致命的な損失であり、まず修理は不可能、よくわからないのだが、どうにも直せなくなった。

 よくわからなかったので、直せなかった。

 

 いまだによくわからない。

 

 そのギターは友だちの家に放置された。

 彼の家に遊びに行くときに爪弾き、アンプから音が出なくなったギターに慈悲をこめた。

 アンプから音の出ないエレアコは、なんていうか、勃起不全になった男性のように自信がなかったし、生音で弾けば弾くほどアンプから音が勃たないことが強調されるようで、憐れそのものだった。

 そのうち燃やしてやろう。それが供養でロックの死に方なんだ。私は燃やす以外にギターの処分の方法を知らない。

 

 申し訳ないことをしたと今でもおもってる。

 

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 だが、そのギターは、さいきん友だちの恋人に贈られたらしい。

 楽器屋で修理し、メンテナンスを施し、アンプから音が出るようになった。

 その子がそのギターで歌う動画をネットでたまたま見かけて、もしやと思い連絡してみたらそのギターだった。

 元気よくアンプから音を出すその姿に、涙腺が緩んだ。

 機能を回復したギターは猛々しく、ハーモニーを奏でる後姿は詩人のようにロマンチックで、夜のように澄み切っていた。

 

 よかった、よかった。

 

 可愛い女の子に弾いてもらえてよかった。きれいな歌声を乗せてもらえてよかった。

 ギターの第二の人生を祝福したい。大切にしてもらえよ。お前は可愛くて格好良いんだ。大丈夫だ。 自信を持て。

 

 ところでどうして高校生だった私は楽器屋で修理をしてもらうという発想が無かったのだろう?

 そこだけがどうしてもわからない。

 どれだけ頭が回っていなかったのだろう。

 一日中性的な事ばかり考えていたから、脳の回路がブヨブヨに浮腫んでいて、思考力があまりにもなかった。意味がわからない。馬鹿すぎる。

 素人なら直せなくても、プロなら直せるかもしれないという当然の考えに思い至らなかったのはほんとうに馬鹿だ。愛しいくらい馬鹿だ。

 

 でも現在、よい弾き手に爪弾いてもらって、ギターも満足していることだろう。

 みんなが幸せならそれでいいのだ。

 もちろん、私も幸せだ。