蟻は今日も迷路を作って

くだくだ考えては出口のない迷路に陥っている

カレーを作って信頼回復を図る

レーはどう作ってもカレーになるから優秀だ。

冷蔵庫にある、なんか良さそうなものを勘に任せて入れても、かならずカレーになる。

食材を好きなように刻んで、炒め、煮、その辺にあったテキトーなスパイスを入れて、カレールーを入れればカレーになる。カレー以外のものにはならない。

ほかの料理はときどき狙っていたものにならなかったり、突然方向性を失い別の料理になっていたり、見た目だけは立派だが食べてみたら毒物になっているなどブレが烈しいが、カレーはカレールーさえ入れればカレーになる。安定感がある。

いろいろ好きに入れた結果、微妙な味わいの違いがでてきて、家庭によってオリジナリティが出てくるところも素敵だ。

日によって入れるものも分量も変わるし、鍋に寝かせればまた味わいが変ってくる。

この世に二つとして同じカレーはない。(レトルトを除く)

 

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土曜の夜にカレーを作った。

これから一週間、お世話になる大事なカレーである。

これを失敗すると、多くの食材が無駄になり、じっくり煮込んだ時間が無碍になり、一週間の食べるものがなくなるので大事な局面であった。

だが私は落ち着いていた。

なぜなら、カレーはどう作ってもカレーにしかならないからだ。

突然おでんになることはないし、爆発して魔人が出てくることもない。

「あなたの作るカレーは美味しいから」と恋人に信頼されている。

「ありがとう」と僕は答えるけど、カレーはどう作ってもカレーにしかならない。彼女が信頼しているのは僕ではなく、ジャワカレー中辛なのだ、と言うことを僕はあえて言わないでおく。信頼はあればあるほどいいものだから。

付き合って5年目になるけど、日々僕は彼女からの信頼を失っている気がする。さまざまな要因がある。僕は求められている結果を出さなければならない。

5年目は信頼を回復させ、より愛を育んでいかなければならない。

 

ここで美味しいカレーを作ることは、そういった意味でも大事な局面であった。

カレールーを入れてから、都度味見をしながら調整していく。

ラー油を入れてみたり、ソースを入れてみたり、みりんを加えてみる。ハチミツも入れる。練りショウガとか試みに入れる。

味見をしていくうちに味がわからなくなっていく。

カレーの味しかしないのだ。

恋人に味見をさせていくうちに彼女もわからなくなっていく。

「美味しいんじゃないかな」と彼女が言うまで僕は味見を止めない。一瞬甘くなった気もするし、すぐに辛くなる気もする。苦みもあるような気もしてくる。

すべては信頼を回復するためである。

 

 

そうやって頑張って誠実に作ったものは、必ず美味しくなることを、恋人の笑顔が照明してくれる。