何を見てもムカつくし、何を食べても味気がないし、とにかく眠いけど眠りたくなくて、死にたいけど死にたくない。そんな気分で過ごした一週間だった。
朝に食べ物が喉を通らなくなった。
ハム一枚すら5分くらい咀嚼しないと飲み込めない。
そして一枚でお腹いっぱいになってしまい、パンなんてとても飲み込むことができない。
朝食をほとんど残した私を恋人が心配する。
「いや、大丈夫。そういう時期がきただけだから」
”そういう時期”はあるものだ。
翌朝から私の朝食はヨーグルトだけになった。
それすらも本当のところ厳しいのだが、なにかはお腹に入れておかねばならない。
ぐちゅぐちゅと口に溜めて、少しずつ、抽出するように飲み込む。
「それだけでお腹は空かないの?日中きつくない?」恋人が言う。
「きついよ」私は答えた。「だけどお腹が減るだけだ」
「わたしは、朝に食べないと具合悪くなっちゃうから無理してでも食べるけど」そう言って がつがつパンを食べる恋人は無理をしているように見えない。大人なのだ。
同棲を始めてから夏の間は朝もしっかり食べることができたのだけど、ここ最近、朝がつらくて紅茶すら淹れるのが億劫でたまらず、もう白湯でいいとすらおもっている。
私がソファでぐったりしている間に(ヨーグルトの蓋を開けスプーンをようやく差すまでの間に)恋人はハムを2枚食べ、パンをすっかり食べ、ミルクティーを一杯飲み終えていた。
「君は長生きをするよ」私は言った。
「どうして?」
「……長生きしてほしいから」嘘はついていない。
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「お腹空くとつらくないの?」恋人は言う。
「つらいよ」私は答える。「だけど、つらいだけだ」
「いったいどうしちゃったんだろうね。いきなり朝ご飯が食べれなくなっちゃうなんて」
私はソファにもたれて天井を見上げた。ぼんやりした朝の光が異様に眩しい。自分を励ましてくれる光がうるさくてたまらない。
「大丈夫だ」
そういう時期なだけだ。
ちょうど太ってきたところだから、一食抜くくらいが丁度良いのだ。
↓
”そういう時期”がやってきた。
季節の変わり目。急激な温度変化。それらによってもたらされる自律神経の崩壊。
どこの体調が悪いのかわからない。全体としては健康の部類。
だけど何を見てもムカつくし、料理は味気なく、世界に向ける心は貧困で、手ごろな調度品を破壊したくなるのに、無気力でとにかくずっと眠っていたい。眠りたくないのに。
めちゃくちゃだ。
朝ごはんなんて食べていられない。
芥川龍之介が漠然とした理由のために自死した理由が、この時期よくわかる。
寝よう。眠るしかない。
できるだけ深く、できるだけ安定的な眠りに身を任せて季節が落ち着くのを待つしかない。動物の冬眠はその点で理に適っている。