蟻は今日も迷路を作って

真面目な話からそうでない話まで。本当の話から嘘の話まで。蟻迷路(ありめいろ)という人が書いてます。

かつて黒い牛の背中だったもの

バンの購入は急務であった。

プライベートで使用するカバンが、俗に「ズダ袋」と呼ばれているボロボロのトートバッグと、布製のカジュアルな肩バッグしか持っていなかったのだ。

 

夏の、Tシャツで出掛けるときはこの二つでもまったく問題がなかったのだが(問題が無いと思っていたのは私だけで恋人にとっては問題だったらしいということはさておき)、秋・冬服に合わせると、合わせるというか、ぜんぜん合ってなくて、これならカバンなんて持たないで外出した方がマシだと恋人に言われてしまった。

だけどカバンを持たずに外出することはできない。

本をしまっておけないし、スマホの充電器はポケットに入らないし(私のスマホのバッテリーはフル充電でも20分で切れる)、恋人の飲み物や折り畳み傘は私が持ち運ぶことになっているので(多くの場合)、とても手ぶらでは外出できないのだ。

それに、恋人がカバンを持つ一方で私が手ぶらでいると、服装の貧相さも相まって「ヒモ」感が出てしまうのだ。恋人は私が「ヒモ」っぽくあることをひどく嫌う。私は彼女のヒモになれるならそうありたいと願っているのに。

 

そういうわけでカバンを買うことは急務であった。

 

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いくつかの休日があり、そのたびになんとなく街でカバンを探したが、なかなかおもうようなものがなく、出会いを待っていたのだが、ついに先週の休日にいいかんじの店と出会い、いいかんじのカバンがあったので、それに決めた。

こういうとき「出会う」感覚ははっきりとわかり、決断もはやい。逆に服やカバンは出会わなければ買うことはできない。

 

黒い牛の革でできた、手に持つタイプのカバンだ。肩ひもは取り外し可能なので、つけたかったらつければいいという勝手の良さ。そういうところも気に入った。モダンだ。

かなり高額だったが、でもこれさえ買えばむこう数年は百人力だわい、と値段に納得させて、購入に踏み切った。

もう25歳にもなるので大学生の頃の服装はすこし幼く、そのためトートバッグが不釣り合いになったのだが、この黒いカバンさえあればジジイになってもさまになるだろう。

 

店頭の商品と在庫商品を比べてみると、革の質感がなんだか違った。

店頭のものは年輪のようなシワが入っていてシブいのだが、在庫のものはハリがあってツヤツヤしている。経年劣化でシワが出るのだろうか?

「店頭のものはウシのお腹側の革を使ったもので、こちらは背中を使ったものになります」と店員は言う。

どうやら部位によって質感は変わってくるらしい。

尻の革でなければなんだっていいので、それを購入した。

 

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無事カバンを購入でき、その日は満足した。

 

普段、服やカバンや靴をあまり買わない代わりに、買うときはやたら高いものを買ってしまうので、出費がやばい。

でも、気に入った服やカバンを使うと気持ちがいい。

何を買うにしても、金は心を豊かにするために遣うべきだ。