蟻は今日も迷路を作って

くだくだ考えては出口のない迷路に陥っている

モスバーガーの父娘

曜日の晴れた昼下がりのモスバーガーでのことだ。

私はスパイシーモスバーガーとポテトをつまみに、ビールを飲んでいた。地元のモスバーガーはアルコールを提供しているのだ。

豊かな日曜日だった。

なにも憂鬱なことはなく、風が気持ちよく雲を運び、トンビは漂って、海がキラキラ光っていた。

昼間から飲むビールは美味しい。

仕事終わりに飲むビールとはまた違う美味しさがある。美味しいので、隙があれば昼間に飲むようにしている。

 

隣の席に目をやると、小学2~3年生くらいの女の子とそのお父さんが対面で座っていた。

二人で食事に来たのか、微笑ましいものだ、と思っていたのだが、様子を窺ううちに私の眉間に影が差した。

 

女の子はハンバーガーを齧り、シェイクを飲んで、お父さんに学校でのことやなにやらを話している。

一方でお父さんは女の子の話には頷きもせず、タブレット端末をいじり、ビールとポテトをつまんでいた。

お父さんはウンともスンとも言わず、タブレットに映し出されるなにか別の情報に夢中になっているようだった。

だんだん女の子は話すのをやめ、無口になり、無言でハンバーガーを食べ終えた。

シェイクを音を立てて啜りながら足をプラプラさせていた。なにかを言おうとして父親の方を一瞬見て、またすぐ視線を曇ったガラスのコップの底に落とした。

シェイクはもう残っていなくて、啜ると「ズズズズ……」と虚しい音がした。じつにつまらない音だった。

父親は目の前に娘がいることを忘れて、タブレットに夢中になっている。

もう足はプラプラさせておらず、空のシェイクと汚れた包み紙を女の子はただ見ていた。

 

   ↓

 

そんなある日曜日のモスバーガーの光景を、痛ましい気持ちでときどき思い出す。

あの時、その光景をもう見ていられなくて、私はさっさと食べて片付けてしまった。

 

 

親子には計り知れない事情があったのかもしれないし、そもそも親子でもなかったのかもしれない。

だけど、たまの休日で、二人でハンバーガー屋に来て、ゆったりとランチを楽しむ時間を作れたのに、こんなのってないんじゃないか。

あの子はお腹を満たしたくて来たのではなくて、いつもは家にいないお父さんと二人、モスバーガーでお喋りをしたりハンバーガーを食べたりしたかったから、一緒についてきたんじゃなかったのか。

 

あれ以来、本当の幸せや豊かさというものについて考えるとき、この光景を思い浮かべるようになった。

私が本当に欲しいもの、相手が本当に求めていることはなんだろう。

単なる食事やお金や衣服や物、ではないのかもしれない。

それらは心の隙間を埋めるための、代替えに過ぎないのかもしれない。

 

まじで金や物を純粋に欲しい場合ももちろんあるけれど。(例:87億円など)