蟻は今日も迷路を作って

真面目な話からそうでない話まで。本当の話から嘘の話まで。蟻迷路(ありめいろ)という人が書いてます。

ケーキを食べるだけで不愉快にさせる生き物

リスマスケーキを食べた。

なんかお店で予約をして、ちゃんとしたショートケーキを手配したのだ(恋人が)。

 

ショートケーキなんて何年ぶりだろう。

子どもの頃はケーキが嫌いでほとんど食べれなかったので(どうしてかはわからない。ケーキの媚びた姿勢が苦手だったのかもしれない。概念としてのケーキ、すなわち形而上学的なレベルでケーキが苦手だったのかもしれない)、ショートケーキにまつわる思い出はとても少なく、「ショートケーキの"ショート"は切れやすいという意味だ」というトリビアの泉で得た知識くらいしか語ることができない、そういう人間なのだ私は。

珍しく食べるケーキ。クリスマスだし楽しみだった。

恋人がケーキを切り分けてくれた。

わぁ、なんて可愛いのだろう。白い皿に横たわったケーキからすでに甘いにおいがしている。

「先食べてていいよ」自分のを切り分けながら恋人はそう言った。

言葉に甘えて私はケーキを食べた。

 

いや、「食べた」というよりも、「貪った」と言った方が、あの状況での私の様子はより正確に言い表せているだろう。

 

恋人がケーキを切り分け終わったとき、私の分はすでに8割ほど終わっていた。

一瞬にしてケーキは私の胃へ吸収されていった。

あまりのはやさに恋人は驚いていたが、なによりも驚いたのは私だ。

気付いたら、ケーキが消えていたのだから。

食べたという記憶も曖昧で、ただ腹には満足感が含まれており、不思議な感覚だった。口に運んで食べた、というより、ケーキが皿から胃へ瞬間移動したと説明された方が納得できそうだった。

美味しかったのだ。ショートケーキ。飲み物みたいだった。

これワンホールいけるわ!と豪語していたが、しばらくすると爆裂に眠くなって、おそらく短時間のうちに糖分を摂りすぎたのだろう、意識が朦朧としてきたので、ソファに横たわった。

意味がわからないが、なんか幸せだな、と漠然とした脳で、ケーキの余韻を味わいつつ尻を掻いていた。

 

この一連の私を見て、恋人はドン引きしたという。

なんていうか、刑務所で一年ぶりに甘いものを食べた人みたいというか、これを食べなきゃ死ぬみたいっていうか、山賊的というか、育ちが悪そうというか、卑しいというか……。

食べ方に一切の情緒が無く、ケーキに向き合う姿勢が自分とは根本的に違っているということを恋人は実感したらしい。

恋人はケーキを食べるために一週間頑張ってきたので、私の「勢いに任せた」食べ方に呆れてしまったらしい。

元来、ケーキやデザートを食べるとき、一口が大きくて、無言で一気に食べてしまうタチで、感情のおもむくままにケーキにぶつかりに行くことは恋人も知っていたのだが、さすがに今回ばかりはケーキの雲散霧消を目の当たりにし、幻滅したらしい。

ものの30秒ほどで私はクリスマスケーキを終了したのだから。

あまりにも情緒がない。動物的だ。クリスマスケーキというある種の特別な意味を持ったケーキを、ものの30秒で……。枯山水でクロールしてるみたいに台無しだ。

 

私は、反省をした。

これからはケーキをはじめ甘いものはゆっくり食べようとおもう。

今まで命がけみたいな感じで巨大なひと口でいっぱいに頬張って甘さを楽しんでいたが、今後は小さくゆっくり食べて、大切に味わおうとおもう。チミチミ食べよう。大切に、丁寧に、感謝しながら食べよう。

恋人に「それはそれで見ていて気分が悪い」と言われた。

 

ケーキを食べることで人を不快な思いにさせるって特技もそうないだろうな。