蟻は今日も迷路を作って

くだくだ考えては出口のない迷路に陥っている

ひーたん、来る。

ーターを買った。

 

うちの間取りは2DKだが、一部屋とDKが襖で仕切られているだけなので、通常は襖を開けてDKと合せて一部屋とし、実質1LDKとして使用している。

もう一部屋は廊下を挟んで恋人の部屋となっている。つまり私の部屋は無いのだが、そのかわりLDKに本棚や楽器やレコードといった私の私物が並べてあるので、このことに関して別に言うことはない。

 

エアコンは6畳用で、12畳あるLDKには物足りない。

部屋はなかなか暖まらず、フローリングは凍てつき、とくに朝方は地獄を見る。

恋人が酷い冷え性で、毎日のように嘆いている。

先日、つまらないことで喧嘩をしたとき別々に食事を摂ったのだが、恋人は冷え込んだダイニングで毛布をかぶりながら冷めたすまし汁を啜っていて、見るからに憐れだった。私は自分の部屋が無いので、喧嘩をしたら恋人が自室にこもるまではどうすることもできずリビングに横臥するしかない。こういう態度は恋人を逆なでする可能性があるが、涅槃して反省している、という解釈を押し付けてなんとかやり過ごしている。

この日も喧嘩をしたにもかかわらず私は行くあてもないのでリビングに横臥し、恋人が冷えたすまし汁を啜るのを眺めていた。

 

部屋が寒いと心まで冷え込んで、なんだか貧しい気持ちになる。

このままではいけない、とおもった。

冷えたすまし汁を啜る恋人を尻目に、どのヒーターを買うべきか私は調べた。

 

近所の電気屋に行くと「初売り」「在庫処分」と称されて小さいヒーターがかなりお買い得になっていた。

欲しかった松下電器のものが(現在ではパナソニックというらしいですね)あったのでそれを購入した。展示品限りだったので、半額になってさらにお買い得になった。

実際に点けてみると、ぬるりと温風が出て足元を温めてくれた。

台所に立つときや、ダイニングを使うときは足元にコイツを置いておくといいだろう。シャワーを浴びる前にこいつで浴室を温めておけば、毎回厳しい寒い思いをしなくて済む。

われわれはこいつに、ひーたん、と名付けた。

 

ひーたんの電気代ははたして高い。

「強」モードにすると一時間で30円ほど銭を取られるらしい。だからひーたんをつかうのは、ここぞというときに限られる。一日点けておくわけにはいくまい。

金のかかる女は嫌いだ。

だけど、使ってみるとかなり快適で、この日の夕食時、恋人にひーたんをあてがっておいたら、寒いと言わなかった。むしろ暑くて消したくらいだった。

これからさらに寒くなる季節だし、私も在宅勤務が増えそうだから買ってよかった。

ひーたん、冬を頼んだよ。

かわいいいやつめ。