蟻は今日も迷路を作って

くだくだ考えては出口のない迷路に陥っている

建設現場のドゴール

が空き地になったおかげで、街を見下ろすことができたり、月を楽しめるようになて嬉しかったのだが、どうやら3棟、家を建てることになったらしい。

 

下記の場所で建設工事を実施します。

付近の住民の皆様におかれましては、ご理解とご了承をお願い申し上げます。

工期:令和3年 1月中旬 ~ 6月中旬

平日・土曜日(日曜・祝日休み) 

 

といった旨のチラシがポストに入っていて、え、あの土地に3棟は無理があるんじゃないかと抗議しようとしたが、私の懸念をよそにある日突然、工事は始まった。

いったいいつ搬入したのかわからないクレーン車が土埃の中で腕を振るい、大工たちがおうおう声を出して土を運んだり鉄筋を立てたりしている。ずいぶん気合が入っているじゃないか。

現場作業員はどうやら全員が日本人らしかった。

取り壊し解体時はリーダーらしき人物と指導員以外は全員トルコ人風だったのだが、やはり建築していくとなると全員日本人のほうが意思の疎通がしやすいということなのだろうか。たしかにトルコ人に任せてモスク風のドーム屋根や尖塔を建てられても困る。

 

これから6月までは工事の騒音の中か。

私は騒音に対してそこまで敏感でもなく、意識から外せば無機質な音は聞こえていないようなものになるから、大して問題はないと思っている。工事なら音が出るのは仕方がない。無音でいつの間にか家が建ってる方が怖い。

しかし。

 

「そっち運べっつったろうが!」

「使えねーな!」

「ぼっと立ってんじゃねぇ!!」

「言わせんな馬鹿が!」

「立つな!」

「座るな!」

「殺させる気か!!!」

「なにしてーんだよお前ェはよ!」

「聞いとけっつったろがグズが!!!」

 

工事の騒音はいいのだけど、怒号が凄まじい。

なかには人格を否定するような言葉も含まれている。

10分に一回は同じ声の怒号が飛び、在宅ワークをしている私はだんだん自分のことを言われているような気分になってきて、黄昏の時間が怖くなった。

クレーン車が土を崩している騒音の中からも怒号が聞こえてくる。騒音に負けじと声を張っているのだ。いくらお隣りとは言えども、機材の騒音を押し退けて怒号が聞こえてくるって相当すごい声量だ。

 

ほとんど一日中、怒号は轟いた。

 

ベランダからこっそり覗いてみる。

リーダー格らしき男が、刺しそうな目で若い衆を叱りつけている。

現場の権力を持っているのだろうが、その権力はき違えて人をコントロールする力を持っていると勘違いしていそうであった。

腹は出ていて、手は分厚く、声はやたらと大きい。

 

私は彼を、ドゴールと呼ぶことにした。

怒号る。

 

在宅ワークが続くなか、毎日毎日ドゴールの怒号を浴びせられたら近隣の私にとって出来上がった物件は精神的瑕疵(かし)になる。

人の声はいろんな意味でよく響くのだから、ドゴールには気を付けていただきたい。

トルコ人たちはじつに静かに家を解体していたというのに。