蟻は今日も迷路を作って

くだくだ考えては出口のない迷路に陥っている

土鍋にぎゅうぎゅうに具材を詰め込んでいるとき幸せを想う

鍋にぎゅうぎゅうに具材を詰め込んでいるとき幸せを想う。

食材が多いことは豊かなことで、心も豊かになっていく。

今の暮らしは貧乏でもないけれど(同世代の平均的な年収よりは少ないにしても)、裕福でもない。4年制大学を出ただけの一般的な生活レベルだとおもう。まぁ、それだけで豊かで、恵まれてはいるのだけど。

細かいところで節約をし、工夫して暮らしている2Kのアパート。

恋人と二人で暮らしている。

 

 

「同棲は女側が不利になるって聞いたことがあるけど、うちは全然そんなことないね」と恋人が言った。

家事をしない男性が多いので、共働きなのに女性側にさらに家事の負担がかかるというのだ。

男にしたら家事をやってくれる家政婦がいて、カノジョの手料理を食べることができて、セックスしたいときにセックスができる環境というわけだ。しかも飽きたら、捨てることができる。結婚していないぶん気楽なものだ。


「あなたが家事をたくさんしてくれるし、むしろ私より家事してるし、料理も上手くなってるし」恋人は私が作った味噌煮込みうどんを食べながらそう言った。

 

私は家事が好きなわけではなく、ただ二人で生きているのが楽しいだけだ。きっと一人だったら家事なんてほとんどなにもしなかっただろう。

恋人のために料理をしたり、部屋を清潔にしたり、恋人の洋服をたたんだり、一緒に料理をすることもあるし、片付けは二人でやるし、一緒にゲームしたり、同じ布団で眠ったり、二人で二人のために決断をしたり、自分たちで責任をもって生活をしているのが、好きなのだ。時には独りよがりかもしれないけれど。

恋人のために料理をしているとき、仕事で疲れてはいても、決して不幸な気分じゃない。

恋人のために生活をしているとき、それは自分のために生活をしているときで、恋人を想うほど自分を思いやる。

 

 

我が家の土鍋は小さく、具材があまり入らないが、食べてみると足りないということはなくて、二人で丁度良い。

白菜を刻みすぎて山盛りになってしまった。それをなんとか入れようと、ぎゅうぎゅうに詰めていく。

火にかければ葉物は縮む。縮むことを祈って火にかけ、鍋の蓋を「のせる」。この間に洗濯物をたたむ。恋人に買ってもらったスピーカーでカーペンターズを聴きながら。

白菜たちはお行儀よく縮んで、コトコト煮たち、火を止めて余熱で芯がやわらかくなるまで待つ。ブログを書きはじめる。

もうすぐ恋人が帰ってくる。