蟻は今日も迷路を作って

くだくだ考えては出口のない迷路に陥っている

死体で遊ぶな美容師たち

の毛を切ってもらった。

理髪店へ行くと髪を洗ってもらえるのだが、私はこれが苦手で、というのも水はね防止の白い布を顔に載せられると死人の気分になってしまうからだ。

 

これ本当に髪を洗われてる最中に静かに死んだら、手間が省けるよな。顔に布をかける手間が。

また、美容師は一時的ではあるけど、死人の髪の毛を丁寧に洗っていたことになる。モミアゲをやわらかい指の腹で押し上げ、後頭部から指先で包み込むように頭を揉み、耳の泡を神経をそそいで流してくれるのだ。たとえ相手が死体でも。

なんかその状況を想うと無性に面白く、口がひくひくしないよう気を付ける。死人の頭を洗うより、にやにやしてる客の頭を洗う方が気の毒だから。

そうして硬く無表情を作り出した私はさらに死人然としてくる。

 

洗われているとき、手はどうすればいいのだろう。腕の置き場がいつも迷子になる。

胸の前で手を組んでしまうと本当に死体みたくなってしまっていつお供え物をされてもおかしくない。かといって体の側面に腕を真っ直ぐに添わせるのもなんか違う気がする。直立不動の姿勢で洗髪される様は滑稽だ。しかし、だらりとした腕はそれはそれで「あ、腕どうするかわからなくて意識してだらけさせてるな」と美容師に思われたら嫌だから、結局、胸の前で手を組み、死体ごっこに興じる。

こうなったら死体になりきるしかない。

 

毎回毎回、どうして私は洗髪中に死体にならなねばならんのか?

自分のせいなのだが、それを理不尽に思っているうちに洗髪は終わる。

生まれ変わったようにツヤツヤの髪になって。