蟻は今日も迷路を作って

真面目な話からそうでない話まで。本当の話から嘘の話まで。蟻迷路(ありめいろ)という人が書いてます。

すべては私に非があります。

画館を出てiPhoneの電源を入れると、充電が3パーになってた。

おかしい。

私は67パーで電源を落としたのに、電気は3時間余りのうちに虚空へ溶けたらしい。電化製品というものは電源を入れる際に最も電力を消費するので、電源を入れたときに64パーセント失われたのだろう。

なんにせよ、おかしい。

 

私のiPhone6sはとっくに寿命を越えていて、100%充電しても、フル稼働では30分と保たないから、普段はエヴァンゲリオンみたいに充電をし続けて使っている。

3パーか、と黄昏ている間にも2パーになっており、目を離した隙にも1パーにならんとしている。私には調べたいことがいくつかあったし、このあと行きたい街もあった。このままではやばい。

電気屋へ立ち寄りてモバイルバッテリーを買うことにした。

 

 

モバイルバッテリーを選んでいると、商店の小僧が寄って来て何かお探しか、と問うた。

私は上記の旨を伝えた。しかも加えて、softbankからアカウントを停止させられておりキャリアメールがここ1年半ほど受信できなくなっていること(送信もできない)、ソフトバンクアカウントのパスワードを亡失したためアカウント復帰できないこと、ソフトバンクの店へ行けばどうにかなるらしいが面倒くさいしどうでもいいのでほっといてること、端末代は払い終わっているのに月々の通信料がやたら高いことなど種々の問題を話したところ、小僧はドン引き、今すぐiPhoneを替えましょう、ということになった。

そんなつもりはなかったのだが、この際だし、小僧が言うには30分ほどですべての手続きは終わると言うから、機種交換することにした。ついでに携帯会社も変えることにした。

 

 

結果からお話しすると、私はiPhoneも携帯会社も変更ができなかった。

1時間半をただただ浪費して、モバイルバッテリーも変えないまま電気屋を後にすることになる。

 

 

小僧に紹介された仲介はauの方で、即座にカウンセリングを開始。店員はふむふむ、となにかメモを取りながら、ときおり頷いたり、眉を顰めたり、忙しそうに私のとりとめもない種々の問題を聞いてくれた。そうして最初から決まっていたかのように彼は言った。

「お客様の場合ですと、auのこのプランがどこよりも安くなりますね」

そらアンタがauの回し者だからな、とは突っ込まず、「じゃあそれでお願いします」と二つ返事した。

どうだってよかったのだ。

彼はどこがどう安くなるのか、今後どういった徳があるのか説明してくれた。今よりも安くなるらしい、ということだけがはっきりした。でも細かいことはどうでもいい。

私にとって今最も大切なのは、瀕死のiPhoneを充電してやることだったのだ。

このあとiPhoneの情報を調べるために、お店の電気で充電させてくれることになった。このとき私は本来の目的を達成していたので、ケータイを替えるのもなんかぜんぶどうだってよくなりつつあった。

 

手続きのために免許証を提示し、契約書に住所氏名を記入した。

「お客様、免許証の御住所と異なるようですが」

「あ、すんません。引っ越したんです」

「現在の御住所が書かれた保険証などはお持ちですか?」

「ありませんね」

「あ……」

昨年7月に引っ越してから私はそのへんの手続きを蔑ろにし、その瞬間まで手続きが必要であることを忘れていたのだ。

結局、保険証にテープを貼って、新しい住所を書き直したのだが、それでよかったのかはわからない。

 

現在softbankと契約している内容がなんなのか私にはわからず、月々いくらかかっているのかもわからず(毎月決まった日に口座からいくらかの金が減っていることには気付いている)、月々のデータ量もわからず、とにかく私にはわからないことだらけだった。

店員に指示されるまま調べたのだが、MySoftbank(ソフトバンクユーザーが月々のデータ量などを確認できるサイト)のパスワードを失念していたので調べようもなく、また、softbankと契約した際に登録したパスワードも失念していたので(そんなものがあったことすら忘れていた)、彼は頭を抱えてしまった。

私の管理はあまりにも杜撰だった。

申し訳ないが、でも、売りつけようとするのは店員の方だから頑張ってほしい。

私はこういった杜撰さに頭を抱える店員に、暗に「25にもなろうという成人男性がここまで杜撰な管理で恥ずかしくないのかボケ」と言われているように感じてたので、たいへん不機嫌だった。

今思えば、店員が頭を抱えるのも納得だ。自分でも情けない。

 

 

携帯会社を替える際には、現在契約している会社に電話をかけ、予約番号というものを入手しなければならないらしい。

「いろいろとどうしようもないけれど、この予約番号さえ手に入ればどうにでもなります。そしてこれは必ず手に入ります」

言われるがまま、softbankに電話をかけた。

これが、繋がらない。

「30分で終わる」と言われていたものがすでに1時間以上経過し、加えて空腹と不機嫌が重なって、店員と私の間は恐々としていた。私は本を読みながら繋がるのを待った。本は良い。私の心を満たしてくれる。

ようやくオペレーターに繋がった。

「予約番号を欲しい」

「ただいま発行いたします」とスムースなやり取り。ここまではよかった。

しかし、オペレーターが私の電話番号と契約を調べたところ、「予約番号をこの場では発行できない」ことがわかった。

なぜか?

契約者が、母だったからである。

 

iPhone6sに切り替えた当時、なんらかの事情があって、契約は母、支払いは私、になっていたのだ。そんなこと忘れてるに決まってる。なんだそれ。

「ご契約者様がおりませんと予約番号は発行いたしかねます」オペレーターは丁寧な口調で、申し訳なさそうにそう言った。

「どうにかなりませんか」

「どうにもなりません」申し訳なさそうだけど、けっこうキリっと断られる。本当にダメみたいだ。

私はひとつ気になったことを訊いてみた。

「契約者が死んでる場合はどうすればいいですか?」

オペレーターは言葉に詰まって、「ああ、そういうご事情でしたか……」とまた申し訳なさそうにして、別の窓口を紹介してくれたのだが、たとえば母を死んだことにして手続きを進めるのは倫理的によくないな、と理性が判断し、「ああ、さいですか」と答えるにとどめた。

またもうひとつ「あなたは電話のところにいて、実際に呼吸をして、生きているんですよね?」と実存の問題が頭に浮かんだので問おうとしたが、やめた。これも倫理的によくないからだ。

 

予約番号を取れないと、どうしようもないらしい。

店員はここまで時間を使わせてしまったことに申し訳なさそうにしつつ、わけのわからない対応で1時間半も使いしかもなんの成果も得られなかったことに、若干うんざりしている様子だった。

私だってうんざりしていた。

映画の余韻が台無しだった。

 

だけど、iPhoneの充電だけはできたのでよかった。モバイルバッテリーも買わずに済んだ。

 

 

 

こうして書き出してみるとすべての問題点は、管理が杜撰だった私に非がある。

携帯のみならずさまざまな契約を放っているので、正体不明の金額が決まった日に月々口座から引かれていて、不気味に思っている。なんかそういう怪現象、みんなもあるのかなって見ないふりをしていたのだけど、たぶんこれは本当にちゃんとした方がいいやつだ。

そのうち整理しなくちゃいけない。