ニンテンドーSwitchの「フィット・ボクシング」をはじめて2週間弱。
烈しい筋肉痛でもなければ毎日続けていて、楽しくプレイできている。
シンプルに身体を動かす楽しさを覚えている。
運動とは本来爽快で楽しいものだったと、運動音痴で体育の授業では苦い思い出ばかりの私でも思えるくらいには楽しいゲームだ。
毎日続けられるなんて思ってもいなかったのですこし意外だった。たぶん疲労感と充実感と労力がちょうど良く、そして楽しいから毎日続けられるのだろう。ストレスはほとんどないばかりか、発散にもなっている。
恋人と二人でハマっていて、お互いに動きを確認してみたり、一緒に筋肉痛に苦しめられて、それすらもなんだか楽しい。
だけどまぁ、楽しいことには間違いないし、日中は「帰ったらFitBoxingはやくやりたいな。ベルナルド(コーチのキャラ)に会いたい……」とわくわくしているのだけど、まったく疲れないわけではないし、正直怠くて「はやく終わらないかな」とパンチを打ち続けながら思うことだってある。
というか、だいたいプレイの後半になると「はやく終われ」と思っている。
疲れている証拠だ。集中できていない。
そうなると頭の中に浮かんでくる思念は、すこしマイナスに寄りはじめる。
なぜだか、過去の、ほんの少し憂鬱だった出来事や、ちょっとだけ苦手な人間関係や、ささいな失敗が頭の中を渦巻きはじめる。
先日はもう辞めてしまった会社の先輩のことを思い出した。
先輩は真っ直ぐな人で真面目で仕事もできたのだけど、真っ直ぐすぎて融通が利かず、人の話を聞かず、自分こそが正直誠大、という価値観の人だったので(本人はそんなこと思ってもいなかったろうが客観的にはそうだった)、うまく話に乗せないと厄介にな人物だった。
上司は先輩をうまく扱っている、ように見えてそれなりに手を焼いていて、コントロールに余計な工数がかかっているように見えた。上に立つ人間とは大変なものである。
パンチの狭間に先輩の顔がよぎる。
その先輩に向けられた厳しい目や、少し棘のある言葉を思い出しながら私はリズムに合わせて正確なパンチを繰り出す。
リズムに合っていると「JUST」と表示され得点が上がる。
素早くジャブを打つと「パシッ」と手ごたえのある効果音が出る。また得点が上がる。
腰を意識的に捻って左フック。
JUST
ジャブ・ジャブ・ストレート・左フック
JUST・JUST・JUST・JUST
得点が上がる。脳内で先輩が言う。「でもそれは蟻迷路さんの考えであって、ユーザーのことは考えてないですよね。仕事ってそういうことでいいと思いますか?どう思いますか?」
ジャブ・ジャブ・ストレート・左フック・ストレート・ジャブ・ジャブ・ストレート
JUST・JUST・JUST・JUST・JUST・JUST・JUST・JUST
「いま声かけないでって言いましたよね?後にしてください。え?ああ、ユーザーからですか……はぁ……」
ジャブ・ジャブ・ストレート・左フック・ストレート・ジャブ・ジャブ・ストレート
JUST・JUST・JUST・JUST・JUST・JUST・JUST・JUST
「今度わたしがじゃあ、そういう風に対応してもいいですか?蟻迷路さんや、皆さんみたいに」
ジャブ!ジャブ!ストレート!左フック!ストレート!ジャブ!ジャブ!ストレート!
JUST!JUST!JUST!JUST!JUST!JUST!JUST!JUST!
最近はコンスタントに高得点を叩き出せるようになり(文字通り叩き出している)、体年齢も当初30代だったものが今では10代になっているほどだ。
ここから続けられるかが肝だけどたぶん大丈夫だろう。
なんにせよ体を動かすことは楽しいこと。ストレス発散になるし、なにかを殴りたい衝動を抑えられる。