さいきん、大根おろしの魅力に気付いた。
大根はおでんのイメージもあって煮物にして食べることが多く「冬の食べ物」の印象が強かったのだが、おろしてしぐれにすることで近頃の不安定な暑さで衰えがちな食欲が刺激されてさっぱりいただけるとわかり、夏は大根おろしでいい、とおでん一辺倒だった印象に新たな視点を加えた。
冬も夏もそれぞれ美味しく食べれるなんてすごい。大根ってもしかしてすごいんじゃないか。両刀使いか。
調理法によって味わいが変わったり、調理器具によって料理の幅が広がるって、当たり前のことではあるのだけど、なかなか道具を加えたり変えることって無いから、小市民的日常生活の中では食材に文字通り新しい切り口が見つかるとむしょうに嬉しいものだ。
大根おろしとわかめとツナの冷製スパゲティ
こうして大根おろしを楽しめるのは、ひとえにおろし器を買ったおかげである。
以前、100円均一ショップでおままごとみたいなおろし金を買ったのだが、それがまったく使い物にならず、「これ使うくらいならアンタの髭でおろした方がマシよ」と恋人に言われる始末の粗悪品であった。
小さくて全然おろせないし、おろせたとしても老婆の陰毛のようなボソボソしたしぐれが出来損なうだけの、まったく意味のない代物である。
「アンタを拷問するくらいにしか使えないねェ」と恋人がしきりに言うので、封印してしまった。
安かろう悪かろう。
こんなもののために百円を支払うなら小さい観葉植物でも買った方がまだ花も咲いて趣があったろうに。
後日、スーパーでちゃんとしたおろし器を買い求めた。
きちんと取っ手が付いていて、鬼おろし、と表題に付するだけあって いかめしい棘、棘、そこでおろすと穴から大根おろしが落ち出て下の透明ケースに溜まっていくという仕組み。天才が作ったに違いない。
買った日もたしかそれを使って、使い心地の良さ、大根おろしの出来の良さに感激した覚えがある。
さいきん大根おろしをよく作る季節になって、あの日このおろし器を買ってよかったとつくづく思うのだ。
この子のおかげで人生がわずかに豊かになった。
大根をおろすのは大変だけれど、それも苦じゃない。ひとえにこのおろし器のおかげだ。
ありがとう。
大根をおろすのに躊躇しなくなった。気軽に、随意に、どこでもおろせる。なんてありがたいのだろう。救われた。魂が。輪廻のレベルで。
恋人も「これでアンタの尻肉をおろすには高級すぎるねェ」と考えを改めてくれた。
ありがとう、おろし器。
Love you .