蟻は今日も迷路を作って

くだくだ考えては出口のない迷路に陥っている

東京の地下には竜が棲んでいる

大江戸線ってなんだよ、という方に説明しよう。変わった名前だ。アトラクションかよ。

そんなふざけた名前の路線があっていいのか、大江戸温泉物語じゃあるまいし、と思われた方もいるかもしれない。ただあなたの汗からは嘘の味がする。大江戸温泉物語を知っていたら都営大江戸線も知っているはずだからだ。

 

都営大江戸線は新宿や六本木、練馬を繋ぐ東京の地下鉄である。特徴はいくつかあるが、そのひとつが路線図だ。

f:id:arimeiro:20210705223142j:image

濃いピンクのラインが都営大江戸線の路線図だ。遺伝子損壊した精子みたいな形をしている。

見てわかるように一周して尻尾が伸びているのだ。

f:id:arimeiro:20210705224304g:image

都庁前駅を始発として新宿西口駅東新宿、と東京を右回りに進み、汐留、六本木など有名所を経て都庁前駅に戻るが、ここで山手線のように環状となって線路がスタート地点に繋がっているわけではなく、進路は東中野、練馬へ進む。キモい。

都庁前から乗るときは三方面ホームがあるので気をつけねばならない。

 

また、大江戸線はかなり地下深くを走っている。

f:id:arimeiro:20210705224711j:image

これと同じエスカレーターで地下深くへ潜らねばならないと思っていただいて遜色ない(ある)。

村上春樹の小説で地下鉄の線路から異世界へ行く展開があったら、この大江戸線の地下通路を使うんだろうなって思う。ハードボイルド・ワンダーランドは世界の終りへ繋がっている。それくらい深い。

 

コロナの影響で都営大江戸線も窓を開けて走行している。まったくすごい時代だ。地下鉄の窓が開けられる日が来るなんて。

このせいで、大江戸線は窓を閉じていた時代から走行音がうるさかったのに、窓を開けてるもんだからもう車内アナウンスどころか隣で話す声も聞こえなくなった。

路線にカーブが多いせいだろう。輪を描いてるから。

先日恋人と乗ったときにあまりの煩さに爆笑したのだが、笑い声も聞こえなかった。10分も乗ってれば気が滅入ってきてやがて口をつぐみ、目を閉じ、しかし耳は閉じれなくて、なんだド阿呆、と悪態をついてしまった。でも誰にも聞こえなかった。

 

竜の巣かってくらい煩い。

竜が電車に並走して発狂してるのかもしれない。目に見えない鱗をトンネルに擦り付け、目に見えない血を吐き、温度のない火を噴いて、巣を荒らす大江戸線に怒り狂っている。

実際、大江戸線は竜の巣を利用して敷設されたのかもしれない。

竜は地下深くで眠っていたのだ。時々思い出したように大地を裂く以外は大人しくしていた。

それを人間が見つけて大江戸線と称し東京の地下に輪っかを描いた。鉄を走らせ、人を運び、ゲラゲラ笑って今日も元気に環境破壊に勤しんでいる。

ただ眠りたいだけの竜からしたらとんだ迷惑行為である。

そりゃあ、こうして怒り狂って雄叫びをあげるのも仕方がないよな。

 

そんなことを考えて微笑むフリをするけどマスクで表情は伝わらないし、気は紛らわせない。

こんなときに限ってノイズキャンセリング・イヤホンがない。

逆になにも聴こえないと言える。

こんなん毎朝乗ってたら頭がおかしくなる。病気になる。ただでさえ発狂しそうな毎日なのに。

もう発狂してんのか?わからん。

なんもわからん。もうずっとなんもわからんのよ。思考できないのね。とっくに。終わっちゃってんの。

竜よ、掻き消してくれ。全部。全部。全部。

りゅう。