蟻は今日も迷路を作って

くだくだ考えては出口のない迷路に陥っている

ケーキで喜ぶ年頃

「26歳なんてもうアラサーじゃん。やばーい」

「たしかにアラサーかもしれないけど、本当のアラサーは28からだと思うし、だいたいマジの三十路からしたら26なんて、ゆーてファッションアラサーでしょ。まだプレ・アラサーだよ。ひよっこさ」

 

彼女が26歳になった。

 

平成7年7月7日生まれの人が身近に2人いる。

恋人と、親友だ。

ラッキーセブンの2人はその誕生日を周囲の人々から特別視されていたらしく、誕生日の話題になるとラッキーセブンなんだとなにかと口にする。いや、友だちはそんなに言ってなかったかもしれない。だが恋人はよく言うのだ。

「ラッキーセブンだから、親戚に『ナナ』って名付けられそうだったの」

7回くらいその話は聞いた。

 

とにかく彼女の誕生日だったので、仕事終わりにケーキを買って帰った。

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狙っていたロールケーキがこの日に限って売れきれていたので小さいケーキを買ったが、結果として美味しかったし、もっと言うと小さいケーキで充分なのだった。

とても美味しかったし紅茶ともよく合った。フルーツはこれでもかと瑞々しく、ケーキは甘すぎずフルーツの旨味を活かす味わいで、一口食べれば全身が幸福感に包まれた。

「おいしい、おいしい」と彼女も喜んでくれた。

ショートケーキの大きな苺を頬張って、さながら26歳児の如き満面の笑みを湛える。

買ってよかった。そう思った。

 

しかし、半分を過ぎた頃で急激にペースダウンする。

美味しいのに、たまらないのに、なんかちょっとお腹いっぱいというか。なんならちょっと胸焼けもするというか。

渋めの紅茶をすする回数が増えた。フォークで小さく取って、小さく食べ、小さくすする。

26歳児も急激に老け込んで、ただのプレ・アラサーになった。彼女には2個ケーキを買っていたのだが、もう1個は明日食べると言った。大の甘い物好きな彼女がそう言うのだ。よっぽど、である。

 

私たちは歳を取った。

老いたのではなく、順当に、相応に、年齢を重ねたのだ。

10代の頃のように甘いものや生クリームをガツガツ食べることはもうできない。経済的にはできるのに、身体が追いつかない。

10代の頃、借金してでも樽いっぱいの生クリームを食べ食べ委員会しておくべきだった。ケーキ1個すら、ましてや夕食後には厳しいものがある。

ケーキひとつで年齢を感じるようになっちゃったそのことが、皮肉にもアラサーの始まりを予感させた。

 

恋人には言ってないが、最近私はオヤツ時でもケーキはちょっと入らなくなりつつあり、今や あんみつとか モナカとか餡子が嬉しい。確実に歳を重ねてる。

これとは関係ないけど、近ごろ朝歯を磨くとオエッてなるし、エネーチケーしか見なくなったし、学生の頃もっと勉強しておけばよかったと後悔するようになった。(※あくまで私は)

 

 

そのうちケーキで喜ばなくなる年齢になるかもしれない。それは誕生日そのものを喜ばなくなるに等しい。

少なくとも喜べる今のうちに喜んでおこう。

誕生日おめでとう。