恋人がお誕生日祝いに、彼女の友だちと車で遠方へ出掛けた。運転してもらってドライブしたらしい。
いいことだ。彼女には「祝ってくれる友達」がいるのだ。
私の友人関係は誕生日に一行LINEを送るくらいで終わってしまう。プレゼントをあげるどころか、会いもしない。
祝われたくないわけではないけど、いざ自分が祝う側になると祝福の気持ちと同じ大きさの面倒くささが両立するので、それならばもうなにもしない方がいいと思ってる。たぶん友だちもそう思っているから、私たちは祝わないのだ。冷たくも温かい。
その日は一日恋人がいなかったので、掃除を済ませたら少し離れた街に家系ラーメンを食べに行った。
家系ラーメンとは、語弊のある言い方をするならば、豚骨醤油の濃いラーメンでニンニクなどを入れて食べる、臭い系のラーメンである。これが美味い。食べた後はいつも後悔するけど、しばらくするとまた食べたくなるから不思議だ。たぶんヤバイものが入ってる。いい意味で。
臭い系のラーメンは彼女がいるときは食べられない。なぜなら臭くなるからだ。それに彼女は濃い味が苦手なので、たぶん家系ラーメンを食べたら卒倒するため、一人のときじゃないと食べに行けないのだ。
この日はよく晴れていて、絶好の家系ラーメンニンニク祭日和だった。家系はニンニクを入れないとLIVE感が出ない。ニンニクを入れてからが本番だ。
しっかりニンニク臭くなって食べ終わり、それなりの後悔を抱えて近くのカフェに寄った。レトロなカフェで、2階から商店街の人波が見える。ここから見下ろすのが好きだ。人間は見下ろしてこそ可愛らしい。
冷やしコーヒーを飲みながら本を読んだ。三田誠広の『いちご同盟』だ。いい物語だった。14歳のときと、25歳のときとでは読み方が変わる小説だろう。もっと早くに読んでおくべきだった。
本を読み終わって、帰宅した。帰りにブックオフに立ち寄り、またいくつか本を買った。
帰宅後も買った本を読み、疲れたら昼寝をした。
わかる人にはわかるだろう。最高の休日だ。
17時ごろ、彼女から電話が入った。
「うちまで車で送ってもらって、それでお友だちを部屋に上げたいのだけど」
もちろんいい、と私は答えた。
「ありがとう。18時ごろには着くと思う。申し訳ないのだけど、部屋の掃除と……あとちゃんとした服を着て、髪とか気を付けてね……。それじゃあ」
私は何だと思われてるのだろう。
部屋の掃除は午前中に終わっていたし、日中出かけたわけだから服もそれらしく着ている。寝癖を直して、簡単にテーブルを拭き、本棚を整理しているうちに恋人と友達はやって来た。
ところで私はコミュニケーションをうまく取れないタイプの人間である。
話をうまく広げられないし、たぶん会話に心がこもっていないことが相手にも伝わるのか、早々に切り上げられてしまうことが多い。なんていうか、会話を起こさせないのだ。
もちろん私から話しかけることもできない。それが仕事だったらできるのだけど、プライベートとなると難しい。なぜかはわからない。たぶん頭が悪いのだと思う。
私が普段会話をする相手は恋人のみだ。会社の人とは話すけど、会話と呼べるようなものではない。そこに心はない。
この一年半くらい、恋人以外の人間と喋ったのは実家の母と妹と猫と、わずかな友だちのみ、それも片手で数えられる程しかない。
さて、初対面の人間がいきなり我が家にやって来たわけだが、私はどうなってしまったでしょうか?
正解は「思い出したくもない」
友人が帰った後、彼女に「今日はえらく緊張していたね」と言われてしまった。
緊張していた。たしかだ。
私が寡黙なばかりに相手にも気を遣わせてしまったし、とてもリラックスしているようには見えなかった。変な汗が出た。ぬるぬるべとべとしていた。
「車の中では あなたに何を訊こうかみんなで盛り上がってたんだけどねぇ……」
もうやめてくれ。悪いのは おれなんだ。いつもこうなんだ。もっと打ち解けてからじゃないと、自分の心が許してからじゃないと喋れないんだ。大体それには半年くらいかかるんだ。
いつもそうだ。なんなんだ。
その日はいつもより酒を飲んで寝た。