蟻は今日も迷路を作って

くだくだ考えては出口のない迷路に陥っている

どんな料理も安易ではない

こ一年くらい、地元から離れて生活をはじめて、食生活が大きく変わったこともあり、食の好みも同様に変化した。

 

地元は海辺の街なので、しらすや干物や海藻類が安価で手に入り、食卓にも「安易なもの」としてよくのぼっていた。

「今日も干物かよ」とよく文句を言っていた。

「楽だからね」

いくらなんでも三日連続とか一週間ずっと干物なんて、飽きるに決まってる。

しらすや生わかめなどもしょっちゅう食べていたので有難味がなく、食卓にしらす丼があると、なんならちょっと「またか~……」みたいなテンション下がるものだった。

料理をする今になって思えば、しらす丼とか干物って準備が楽なうえにそれなりに美味しいので、やる気がない時はついつい出しちゃう気持ちもよくわかる。

 

引っ越して恋人と同棲を始めてから、しらすや干物をあまり食べなくなった。

スーパーでけっこう高価なのだ。干物って一食分にしかならないのに300円以上するからコスパがかなり悪い。割引されていないと手が出ない。

しらすも高いうえに地元のものに比べると小ぶりであまり美味しそうじゃない。

彼女が実家にいた頃あまり干物を食べてこなかったということもあってわざわざ買うほどのものでもなく、必然、干物は食生活から遠のいていった。

 

ときどき、実家から干物やしらすや小魚が送られてくる。

見慣れたパッケージに入ったアジの干物に、妙な安心感を覚えるものだ。

グリルで焼くと脂が染み出してしたたり、皮がパリパリと音を立てて魚独特の食欲をそそる匂いがキッチンに溢れる。

ほぐした身に少しだけ醤油をつけて、白飯と一緒に頬張る。

その味は地元の味、実家の味。

記憶の彼方から磯の香りがする。海の街は潮気を含んだ風が吹いて、磯くさいのだ。あの街のにおいがよみがえる。

美味しい。

懐かしさ、安心感、も、あるのだろうけど、それにしても干物ってこんなに美味しものだったろうか?

発酵食品特有の、滋味、に満ちていて体の奥まで旨味が浸透していくような美味さだ。美味しいうえに、食べていて実感する「栄養」の味。頭がすっきりしていく感じがする。やっぱり魚って食べると頭が良くなるんだなぁ。Eating fish makes me smarter.

 

魚から距離を置いたことで魚の良さがわかった。

昔飽き飽きするほど食べたものだからこそ、今になって染みるようになったのだろう。

送られてくるしらすも本当にありがたく嬉しい。

彼女も干物やしらすの良さをわかってくれたようで、仕送りをいつも楽しみにしている。

ありがとう、お母さん。