蟻は今日も迷路を作って

真面目な話からそうでない話まで。本当の話から嘘の話まで。蟻迷路(ありめいろ)という人が書いてます。

弦交換をした

日にギターの弦を張り替えた。

ギター(楽器)を弾かない人からしたらなんのこっちゃという話しだろう。

ギターの弦は日に日に錆びてどんどん音が鈍っていくので、定期的に張り替えねばならない。ギターの音が最も綺麗なのは張り替えたその日だ。弦は永遠ではなく消耗品なのだ。だから交換する。これはなかなか手間のかかる作業だ。

 

鋼鉄の弦を外してやると、ギターの木は、ほぅ、と一息ついたように弛緩して見える。すべての弦楽器は、弦を張る力と反対方向へ反ろうとする力が拮抗した常に緊張状態にある。だからか、弦を外すと肩の力を抜いたような顔をするものだ。

だが、弦を張ってないとそれはただの死んだ木だ。死んだ木に用はない。

指板についた手垢や汚れをオイルでこすり、ボディや糸巻きの埃をとる。

リア・ピックアップ(音を拾って電気信号に変換する装置)の調子が悪いので、外してどこが悪いのが見てみる。しかしよくわからなかった。そのうち修理に出したほうがいいだろう。

新しい弦を張り直してチューニングを合わせ、しばらく強めにガシガシ弾く。弦は金属製なので、張りたては延びて調弦が狂うのだ。

弾いてはチューニングし、また弾いては弦が落ち着くまでチューニングする。

 

ギターを始めたての頃、この弦交換ができなくてかなり苦戦した。

弦交換は慣れないと難しいので店でやってもらう人も多いが、私はなんとしても自分でやりたかった。

自分の楽器くらい、自分でメンテナンスしたい。たとえばそれは自分の腕や足のように。手の爪を切るくらい自分でやるだろう。それと同じことだ。

当時使っていたギターは震災で棚から落っこちたキズモノで、値段が破格に安くなっており買ったものだった。小さい傷がところどころに見られたが、アンプに繋げば音は出たし、弦も6本ちゃんと張ってあった。ギターの形もしていた。

ただ、やたらと重かったし、使っていくうちにネジが緩んで部品が外れたりと惨惨たるものであった。極め付けは糸巻きが壊れていて、弦交換が容易ではなかったことだ。

それでも自力で張り替えた。1週間くらいかかった。

今こうしてすんなり弦交換するたびに、あの最初のギターの地獄みたいな弦交換を思い出す。

 

調弦が落ち着いてきたので、知っている曲を知っている順に弾いていく。

熱心なギター弾きではないので、ずっと下手くそだ。レパートリーも増えないし。ビートルズの「ミッシェル」をあと何年弾くのだろう。

でも、なんとなく知っている曲を弾けるのは、ひとつの豊かさだよなぁとも思う。

張りたての弦は艶やかな音で和音を奏でる。空間全部に広がっていくように。

丁寧な気持ちになるように。