バナナを買った。98円だった。
写真は一本食べてから撮った。バナナをバナナそれだけで食べたのは本当に久しぶりだった。
ご覧のとおり、かなり値引きされていただけあって結構熟れてしまっていて、じっと観察していると斑点がひとつひとつ増えていくのがわかるくらい物凄いスピードで熟れていく。
特に私が一本もいでから、斑点は加速度的に増えていった。
家に帰ってドアを開けると、ふんわりとバナナの香りがする。
芳香。
バナナの森があったらきっと甘いにおいが漂って、蜜が滴ってそこは楽園の様相だろうな、と想像する。そんな香りが漂う。
幸福な香りだ。優しい。温かくはなくて、冷たくもなくて、常温の、そこにある濃密な香りがする。落ち着く種類のものではなく、ちょっと血を沸き立たせるような興奮的な香りだ。夢中の香りだ。
私は一切やったことがないのでわからないのだけど、阿片とか危険薬物の発する煙はバナナみたいな濃厚な甘い匂いがしそうだ。そうであってほしい。確かめようもないけど。
平日夜にココアのパンケーキを焼いて、バナナをトッピングして食べようと思ってる。
さいきんそういう罪深い遊びが楽しくてならない。深夜にパンケーキを焼いたり、メロンソーダを作ったり、袋麺を炊いたり、そういうことでしか人生の楽しみを見出せなくなってきた。
しかし単にパンケーキを焼くと言ってもタイミングが必要だし、バナナにも消費期限がある。
今こうして呑気に書いてる間にも、バナナはズブズブと腐っていく。時間を止めることができないようにどうしようもなく、破滅的な勢いで。私はあまりにも無力だと思う。
パンケーキを焼くタイミングというものが確かに存在する。それは少なくとも、今これを書いている月曜の夜ではなかった。
そのタイミングが火曜の夜であってほしい。
でなければバナナはいよいよ、というわけだ。
バナナに鼻を近づけてみる。頭の中がバナナ一色に染まる。
ふとよぎる。ゴリラ。
ゴリラってバナナを食べているイメージだけど、実際にバナナを食べているゴリラを見たことがない。紙を食べているヤギを見たことがないのと同じように。
ゴリラがバナナを食べる場合、あの太い指で丁寧に皮を剥くのだろうか。そして白いスジを除けるのだろうか。
私はゴリラじゃないからわからない。
ふとよぎる。ドリアン助川。
ドリアン助川さんは作家の吉本ばななさんに憧れて自らをドリアンと名乗ったそうだ。そんな話を昔に聞いたのだが、私の思い違いの可能性もあるのでなんでもすぐに鵜呑みにしてはならない(警鐘)。
吉本ばななに関連してドリアン助川が導き出された速度は0.3秒くらいだった。ほぼ、バナナからリンクを踏まずにドリアンへ飛んだと言えるだろう。
著作の『あん』も読みやすかった思い出。
こうしている間にもバナナはみるみる腐っていく。ドリアン助川に想いを馳せている間にも、取り返しのつかないことになっていく。
バナナたちが今週1週間も耐えきれず朽ちていくのをただそばに見守るのは悲しい。彼らは来週も月曜日があるということを永久に知り得ないのだ。
はやく食べなきゃ。