蟻は今日も迷路を作って

くだくだ考えては出口のない迷路に陥っている

モデルナ・アームの裏技

日ワクチン接種の1回目を済ませてきた。

仕事や休みの都合が合わず、周囲の人に比べたら遅めの接種になったが、ともかく済ませてきた。

集団接種会場はシステマティックに運用されて無駄がなく、人々の誘導や掲示板はさまざまなエラーを繰り返しながら最適化してきたことがうかがえた。係員の方々の誘導はスムーズで、人々はたじろいだり困惑する隙も与えられない。

接種自体はあっという間に終わり、私はアレルギー持ちなので30分経過観察に待機した。待っている間、先日直木賞を受賞した『テスカトリポカ』を読む。物語は佳境を迎えていた。

「そろそろ時間ですが、お体の具合はどうですか?」

夢中になっていたので30分はあっという間だった。すごくドキドキして、顔がほてり、絶え間なく興奮していた。

それがワクチンの副反応なのかもよくわからなかったので、待機時間に『テスカトリポカ』を読むのはやめた方がいい。

 

恋人は注射を打ってすぐに腕が痛くなったと言っていたので怖かったが、しかしだからと言ってどうすることもできないのでもう覚悟を決めるしかなかった。

先に打っていた母が「注射してもらってからずっと腕を上げていたら、痛くならなかった!」と嘘みたいな裏技を教えてくれたのだが、それを実践した妹によると「意味はなかった」らしいので話半分に聞いて、私はただ痛まないことを祈るだけにした。

わけのわからない裏技を実践して恥をかくくらいなら痛みを受け入れた方がいい。その裏技は母が考案したもので、なんの根拠もないのである。

 

副反応は人によりけりで、私はすぐには痛くならなかった。

助かったや、と呑気にスーパーで買い出しをして帰宅したのだが、接種から2時間ほど経った頃、夕飯の肉じゃがのにんじんを刻んでいたあたりで左腕に違和感を覚えた。 

なんか痛い気がする?程度だったものが時間を追うごとに痛みを増し、寝る頃にもなると気合を入れないと腕を上げられないくらいになった。

今朝起きたらもっと痛い。

仁王の顔になって腕を上げる。馬鹿だから腕を挙げるまで痛いことを忘れているので馬鹿の仁王だ。挙げてから痛みを思い出すので、いちいち「痛い痛い」と口にしており、それがなんだかアピールみたいになってしまって恋人に煙たがられてそうで怖い。

ただでさえ彼女の朝はご機嫌ナナメ(75度くらい傾いている)なのに、近ごろ仕事の忙しいことや、私だけが夏季休暇中であることなども手伝って、いつにも増してすこぶる曇り空だ。殺意みたいなものを感ずることすらある。そこで痛い痛いとしょうもないことを言っても煩わしいだけで本当にしょうもないだろう。

 

なので、痛いと言うのはやめて、笑うことにした。

爆笑ではなく、やれやれしょうがないな、と半ば飽きれるように鼻でクスクスと笑うのだ。

笑っていると痛みが軽減する気がするので、それを応用した裏技でもある。

 

なんだかんだ私は母の息子なのだと思う。