さいきんまたギターを触りはじめて、特にソロギターの練習をしている。
ソロギターというのは簡単に言えばバンド編成の楽曲やオーケストラ曲をギター1本で弾こうという試みのことである。歌(メロディ)と伴奏とベース音階を一人で同時に弾くのだ。
そんなことが可能なのかと知らない人は首をかしげるだろうが、可能なのだから仕方がない。弾いている自分でもなぜできるのか説明は難しいが、たとえばピアノがメロディと伴奏とベースを同時に弾いているのと同じようなものだ。それは当然と言えば当然で、すごいと言えばすごい。
ギターは弦が6本しかないし、音階もピアノほど広くないけれど、ギター1本あればあらゆる音楽をギターらしく再現でき、できることは実質ピアノに近い。
それにピアノよりも小さくて体に抱えられるし、耳触りの丸い、温かい夜みたいな音がする。胴体で共鳴している木の音がする。ホール(穴)から木の香りがする。
つくづく優秀な楽器と思う。
スピッツのバンドスコア(ボーカル、ギター、ベース、キーボード、ドラムスの譜面が収録された楽譜)を睨みながら、メロディを拾い、ベース音の必要な箇所と合わせ、隙間を和音で埋め、もちろんすぐに弾けるわけないので半小節を何度も繰り返して指先に音を覚えさせる。
地味だけどその繰り返しが心を丁寧な調子にチューニングしてくれるのだ。
村上春樹の『ノルウェイの森』で登場人物の女性がクラシックギターを弾く場面がある。
ビートルズの「ノルウェイの森」とか「In My Life」とかバッハのフーガを弾いてくれる。(「In My Life」を弾いていたかどうかは記憶が怪しいのだが、個人的には弾いていてほしい曲だ)
自分を慰めるようにギターを奏でる。たとえばある時は言葉よりも雄弁になにかを伝えようとする。
物語の終盤、彼女が主人公の家に来たときは、自分の弾けるだけの曲をありったけ弾いてみせる。
ギターの音の中にしっぽりと身を沈めていくとき、かの小説のギターを思い出す。レイコさんが主人公と直子のために奏でた楽器の温かさと寂しさに思いを馳せる。
下手くそでも音は響くものだ。
ギターって抱きしめながら弾くから好きだ。
音の温もりがお腹から入ってくる。