蟻は今日も迷路を作って

くだくだ考えては出口のない迷路に陥っている

排水溝に人生を狂わせられてはいけない

面所の排水溝が詰まった。

高級バリスタの丁寧なドリップのように少しずつ流れていく汚水。ごぽごぽ音を立てるさまは「早急になんとかしないとこれから身にかかる不幸は計り知れないぞ」と地獄の底から警告されているみたいで恐ろしい。

なんでこんなことに?

僕は、けっこう頑張って、耐えて生きているつもりだ。

今の仕事はつらいし、転職活動も平日の夜ってまぁまぁしんどいし、肩こりは酷いし、足はへんなにおいがするし、乱視が入って来てて、前髪は退行が止まらない。歯並びも悪い。

でもあんまり弱音も吐かずに、恋人の前ではできるだけニコニコし、人と話すときは笑うように心がけ、お金はギャンブルに使わず、読書と芸術を愛している。仕事はあまりうまくないけど、でも健気に生きていると思う。客観的にも主観的にも。

それなのにさ、なんでよ、排水溝。

つまるこたぁねぇだろがっ。

おい。

こら聞いてんのかダボ穴。

どぎついモンつっこんだろか。アホ穴バカ筒。海賊に犯されろ。腐り落ちた眼窩。虚ろ。雑魚。なんらかの疾患の痕。ドブ。

などと罵倒しても詰まりは直らない。

スマホのライトで排水溝の中を照らしてみると、なんとも形容しがたいのだけど、「負」の塊のようなものがパイプにびっしりこびりついており、これのせいで水がなかなか抜けていかないとわかった。

幸いにもまったく流れないわけではなく、時間が経てば水は抜けていく。が、水がちゃんと流れていくかを見守る無意味な時間は一生の中でもう二度と取り戻せないわけで毎日毎日こんな無為なことで人生を潰してはいけない、この排水溝を可及的速やかになんとかしなければいけない、我が人生を取り戻すために。ごぽごぽ言ってるダボ穴の前で決意した。

 

しかしどうすればいいのかわからない。

割り箸でつついたり、ゴミを取り除こうとしたがかなり奥の方なので届かず、いたずらに手を臭くしただけだった。

課題解決の友、Googleに相談してみる。

「排水溝が詰まったんだ。どうすればいいかな」

『業者を呼びましょう。プロがいちばんですよ』

「そういうのじゃなくてさ、もっとお金をかけずに、すぐさまどうにかしたいんだよ」

『であれば』とGoogleが提示したるは「パイプユニッシュ

知ってますか?「パイプユニッシュ

こびりついた汚れを強力分解、つまりもニオイも解消するパイプクリーナー
●配水管・排水口のつまり、ニオイをしっかり解消。
●髪の毛・ヘドロを強力分解し、キレイにします。
●少ない少量でも粘度が高い為、汚れに粘着しパワフル洗浄。
●家のあらゆる排水口・パイプに使えます。
●コンパクトサイズで、使いやすく簡単にかけられます。

AMAZONより引用

 

頼もしいこと限りない。パイプユニッシュ液を排水溝に流し込むだけでいいらしい。

早速、近所の薬屋へ走ると、クーポン割引を使って220円で購入できた。

走って帰宅し、その勢いのまま排水溝にどぶどぶ注いでみる。液は意外にも透明で(黄色くない!)ナメクジの粘液みたいにトロトロしている。

綺麗だけど髪の毛やほこりなどのゴミを溶かすというのだからめちゃくちゃな劇物だ。人が飲んだら確実に死ぬでしょうね。綺麗なのに。なにかそんなような諺があったかもしれないけどパッと出てこない。

 

30分放置して、水で流してみると、アラ不思議。排水溝は直っていた。勢いよく渦を巻いて水を吸い込む。

200円ちょっとで解決できたのがかなり嬉しい。これからは「黄色と言えば?」で「パイプユニッシュ」と答えよう。それくらい敬意を表する。

それにしても、さーっと気持ちよく流れる排水溝は見ていて気分がいいものですね。面白がって水を流してしばらく見ていました。人生はこうでなくちゃ。