在宅ワークが早めに終わったので、夕飯を作ろうと冷蔵庫を開けると、肉が足りていなかった。じゃあ肉と酒でも買いに行くか、と雨の中スーパーへ傘を差し向かう。
歩きながら、先日妻が「そろそろ魚が食べたいなぁ」と言っていたのを思い出す。
安ければ刺身でもいいかもしれない。
スーパーに到着し勇み足に鮮魚コーナーを覗いたが、刺身は別に安くもなかった。
刺身って一食にするには値段が張る。魚ってまじで贅沢だよ。だいたい一食で終わっちゃうからコスパが悪い。2食になるならまぁ、って感じだけど、一食て。
若者の魚離れがニュースで話題になるとコメンテーターは首を横に振ってため息混じりに「いまの若者は、魚が切身で泳いでると思ってるんですよ」と個人的感想を鼻穴広げながら得意そうにおっしゃるが、そりゃ魚離れるわ。
魚、高いもの。
東京だと魚、高いのよ。豊洲あんのに。贅沢品なんだよ。美味しいのに。
やっすいやっすい魚、腐りかけのが半額以下で売られることもあるけど、そうなると美味しくないし。
高い魚を買うと、なにか尊厳が削られていくような気持ちになるんだよ。
憤慨していたところ隣の棚を見やると、アジが10%引きで売っていた。
230円。
ほ〜。
豚こま一食分の値段などと比較し、アジ購入。
アジ2尾230円と缶チューハイその他野菜を購入して帰宅。
今夜はアジフライ。
アジフライは好物だ。
子どもの頃はそんな好きじゃなかったけど魚が「贅沢品」になってから、味覚の変化もあって好物になった。妻も喜ぶだろう。
塩を振ってしばらく放置していると魚肉から汁が出てくるのだけど、アジフライを作る上でこれが一番面白いね。浸透圧かなにかの関係で汁が出てくるのだろうけど全然納得できてない。なんだそれ。この汁を出しとかないと生臭くなってしまうのでゲラゲラ笑いながら塩を振ろう。
汁気を取ったら再度塩コショウを振り、小麦粉をまぶして しばし魚の肌を撫でる。
小麦粉でコーティングされてサラサラになってる。これはアジフライ作りの中で2番目におもしろい。お化粧してはる。
と、身の方でなにかチクチクするものを感じたので見てみると、小骨がびっしり埋まっていた。
こういった骨は火を通せば噛み砕けないこともないし、私はそれでいいのだけど、妻が嫌がりそうなので骨抜きで一本一本、祈るように抜いていく。料理は気持ちだ。喜びのためなら小骨を抜くくらい苦じゃない。
小骨を抜いたら卵にひたし、パン粉をまぶして油へGO。
油の温度とかよくわかってない。ようは衣がキツネ色になればいいのであって、注意すべきは揚げすぎてタヌキ色にならないようにすることと、火が通るのを焦らず待つこと、暗く重たい感情や絶望に囚われているときこそ一抹の光には敏感になれるのを忘れないことだ。
油の量もどうだっていい。たくさん使うのは勿体無いので玉子焼き用の小さいフライパンの一面に油が満ちるくらいの量でやってる。深さにしておよそ2ミリ。これでいい。
そんな感じでもちゃんとシュワシュワ言ってるし立派にキツネ色になるもんだ。
妻が帰ってくる。
「えっ?!アジフライ?!!?!」
喜ぶというより、驚きと、やや引いている。
「仕事終わりにスーパーへ行ってしかもアジフライを作るなんて信じられない」
しかも、もちろん、美味しい。
平日の夜、スーパーへ買い出しに行って妻が帰るまでに夕飯用意して待ってる夫。当たり前のようにそれができる自分が誇らしい。