函館の朝市をぷらぷら歩いていたら蟹屋のおじさんの営業トークに捕まって、さまざまな話を聞けた。
カニ、とひと口に言っても、ヤドカリ科とカニ科の2種類があって、ヤドカリ科のミソはあまり食べられない。だからタラバガニはヤドカリ科なので脚だけ売ってることが多い。脚8本がヤドカリ、10本あればカニ。らしい。
カニの雌雄の見分け方、買い方のコツや発送方法など聞き、そうかそうかと知識を蓄えたところで、このあたりで美味しいお店はどこか訊くと、おじさんは快くオススメの定食屋を教えてくれた。
「地元の漁師がよく行く店だよ。わりと混んでるかもしれないから行くなら早めに行くといいよ」
私と妻は早速、その店へ向かった。カニは、買わなかった。今オススメのカニ別にないから食べるならイカの方がいいよ、とおじさんは言った。お喋りしたかっただけらしい。
その店は観光客と地元の方で列をなしていた。人気店らしかった。
店内に入り、本マグロやウニが美味しいということで、海鮮丼を頼んだ。
美味しそうでしょ。めっちゃくちゃ美味しかった。
てっきり海鮮丼だけかと思っていたのだが、味噌汁に加えサービスで多種小鉢もついてきた。
ここで私と妻は青ざめた。
量が多い。
私たちは少食なのだ。
少食はこういうとき非常につらい。
サービスでつけてくれたり大盛りにされると、楽しみだった食事が途端に「ノルマ」と化してしまう。
善意に対してこのように思ってしまうのが申し訳なくそれもツラくて、店が腹を切って提供してくれたサービスに対し応えられないのは不義理になるのでそれを避けるべく、一生懸命、食べなければならなくなる。
「うっ」と言って妻を見ると、嬉しそうな笑顔がなんとなく引き攣っている。
どうしてこんな思いをしなくてはならないのか。
私たちが少食のせいだ。
海鮮丼はきわめて美味しくて、天然のウニは新鮮ゆえに特有の臭みもなくさっぱりとしており、イクラも切れがあって弾ける感触がまことに美味であった。なんといっても名物のマグロは濃厚な口溶けで旨みが凝縮されていた。
妻のカニ汁(毛蟹なのでカニ科だ)もカニのアラくらいだろうと思いきや身がずっしり詰まっていて嬉しかった。小皿の「サービス」も地元のイカを使った煮物やワサビ漬け、カニの卵など種類豊富で食べていて飽きず、たいへん満足した。
満足しすぎた。
すっかり食べ終える頃にはお腹の許容量を超えており、ここから食べ歩きなどできるはずもなく、ホテルに帰るほかなかった。
イカ釣りしたかったのだけど(妻がイカを釣ってオタオタするところを見たかった)、釣ったところで食べられるほど余裕はない。カニ饅頭も美味しそうだったが入るわけない。お土産も買えない。お腹いっぱいで購買意欲が失せた。
つくづく、もっと食べれたらなぁと思う。
大食いの人が旅先では羨ましくなる。