結婚のお祝いでいただいたお食事券で、天王洲アイルに鉄板焼きを食べに行った。
美味しかった。
それにしても天王洲アイルって名前はすごい。「アニメキャラクターっぽい駅名ランキング」殿堂入り間違いなしだ。
天王洲アイルちゃんはあまり感情を表に出さないミステリアスお嬢様で超箱入り娘なので世間知らずだが、主人公との交流を通して次第に心をほぐしていき……というあらすじまでなんとなく見えてくる。髪の色 : 青。
周辺のりんかい線には東京テレポート駅や品川シーサイド駅があり、そこいらのJR線の駅名とは一線を画してどこかテーマパーク的な要素を演出していて、駅名を見るたびになんだかワクワクさせられる。だが降りてみると別にそんなでもない、車の音がうるさい埋立地だ。
ずっと前からいずれ鉄板焼きを食べてみたいと話していた。
鉄板焼きといえば美味しいステーキもそうだけどなにせ目の前で焼いてくれるのが嬉しいもの。
目の前で料理をしてくれる、私のために時間を使ってくれている、そして客が目の前にいるので一切の誤魔化しができない緊張感、すべてが自分のためにあるかのような支配感が至福だ。
10年に一度行ったことがあるかどうかの鉄板焼きというものに、並々ならぬ期待感を寄せていたので、結婚祝いに行けてよかった。
コース料理の先付やサラダをつまみにビールを飲む。昼間からビールを飲めるのがまた良い。28階からの眺めを横目に料理人が鉄板上でなにやらエビを焼いたり野菜を刻んだりしているのを注視しながら、妻の「最近買ったコスメとそのブランドの是非論」に耳を傾ける。忙しい。
料理人も、カウンターに座る我々とあと2組のために順序を計算立てて無駄なく動いている様子で、どの組みをも疎かにしてはならないので気を配りつつ肉を焼き、忙しそうだった。私だったらパニックに陥ってエビを焦がしているだろう。
ヘラさばきが鮮やかで鉄板に擦れ合うシュッとした音が格好良い。すらりとした包丁を肉に当てるといともたやすく、鋭く角の立った肉に切り分けられる。刃は磨かれ、布巾は白く、鉄板は熱い。
鉄板はすぐに黒く焦げ目がつくのでひとつ調理をするたびに掃除せねばならずたいへんにケアが手間だが、調理場を常にキレイに保つその姿勢を私は美しいと思えたし、なにか儀式的で格好良かった。
フィレ肉は柔らかくジューシーで、味わいの中に肉を食べる喜びを感じられる。儀式的な調理工程を経て焼かれた肉には「鉄板で儀式的に焼きました」という付加価値があって、それは一見無駄なことなのだけれども、鉄板焼きの本質とはその無駄というか、言うなればエンターテイメント性にあるのだと思う。
梅とおかかのご飯を鉄板で焼いたものが出たのだが、これがまた美味しかった。ただ、ご飯物はどう考えても鉄板よりもフライパンで焼いた方が楽そうなのだが、それでも鉄板でやるところに拘りというか、矜持、を垣間見たし、鉄板焼きの醍醐味とは料理の味もそうだけど、やはり焼いているところを見られるそのパフォーマンス性にあるのだ。このご飯はその姿勢が存分に入っていた。
パフォーマンス性を抜きにしても料理はとっても美味しかった。
贅沢な時間を過ごせた。また機会があれば鉄板焼きに行きたい。
また結婚祝いで貰えないかな。何回も結婚しようかな。
ただこちらのお店、11月で閉店されるらしいのが残念だ。鉄板を扱う料理人たちの矜持がこれからもどこかで大切にされますように。