蟻は今日も迷路を作って

真面目な話からそうでない話まで。本当の話から嘘の話まで。蟻迷路(ありめいろ)という人が書いてます。

尊敬する人/定期券購入未遂/納税の催促怖すぎる

なたの尊敬する人は?

と訊かれて「はい、父と母です」と答える子どもの93%は、そう答えると大人が喜ぶのを知っていて、そう答えているのです。

頭を洗っているときにそんなことを考えた。嫌な人だと自分でも思う。

でも、自分の子どもが考えなしにそう答える人間になってしまったら、教育を考え直すだろう。

だくだくと音を立てて汚れた泡が排水口へ流れていくのを見た。

 

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定期券を買い忘れていたため、11月に入ってから自費で通勤していたことに今朝気付いた。

なんかお金減ってるカモ?って思ってたけど、気のせいじゃなくてほんとうに減ってた。減るもんじゃないと思ってた固定観念が邪魔をしたのだ。

それがショックで月曜の朝からゲンナリした。おれは一体、こういうところで人生の損をするのだ。

と、ひとしきりゲンナリしたらすぐに忘れて、結局家に帰るまで思い至らず、今日分もきっちり自費で通勤してしまった。過去の自分よ、なぜそんなに金を入れてたんだ。

絶対に明日の朝、定期を買う。

やると言ったらやる男だよ、おれは。

 

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帰宅したら区からお手紙が届いていた。

区から届くお手紙で幸福になったためしはないので警戒したが、案の定、不幸の手紙だった。

開けると飛び込んでくる漢字、見たこともない六文字熟語、読んでも何かわからない、わかる気もない文章、次いで数字、なにやら数字、どうやら金額、しかも高額、ちょっと血の気が引く高額、納税、納税せよ、納税?してるが?

「国民の三大義務のうちのひとつ、納税」

国、お前がそれを言うな。

国、お前が言うからムカつくんだ。

お手紙の内容がわからなくて、でも不穏な雰囲気だけはわかって、怖くなった私は一旦置いてベットに潜り込んだ。

布団の陰からそっと机の上を窺うと、妻がそれを取り上げた。

「こういうの、ちゃんとしないとダメだと思う。27歳になるわけだし」妻が言う。

妻はこういうことにルーズなのをひどく嫌う。正論を振りかざすのだ。

「書いてある意味がわからないんだ。文学部出身のおれがわからないんだから、正直、悪いけど、中卒とか学歴の弱い人は間違いなく理解できないね」

「あなたがこれをまともに読む気もないから理解できてないんでしょ。それにいま学歴は関係ないでしょ。音読しなよ。意味わかるから」

「だいたい読まなくてもわかる。不当な理由をつけて納税を迫ってるに違いない。こいつらは目ざとくおれの人生にケチをつけて、カスみたいな小金をせしめようとしてるんだよ。どうせ子育て支援とか老人の介護負担軽減とか有用なことには使われず、意味のないタワマンを建てる補助金にでも使われるのサ。だからおれは読まない。読んでも理解しない。区に怒られても仕方がない。争うことになったらこの区から出ていくだけだ」

「ああわかった。離婚するか?」

私は、読んだ。声に出して読んだ。

するとどうやら、転職に伴って住民税がどうのこうのらしく、来年5月まで給与から引かれない分の税を自分で払わなければならないらしい。

目ざといやつらめ。

そう説明されると、しかし、理にかなっていて反論できない。

だから正論は嫌いだ。