近所のスーパーで天然の真鯛が370円で売られていて、鮮魚コーナーの営業に「それはね、もう今、今ですよ、今買わないとね!フフフ」と営業トークされ、まんまと買ってしまった。
「一尾でいいのかい…?」と営業に推されたが、一尾にした。二尾も食えるか。
「アクアパッツァでもいいし、塩焼きでもね、フフフ」
と言いながらアクアパッツァの素?みたいなものも買わされそうになったが耳を貸さず、私にはプランがあったので鯛を握りしめて急ぎ帰宅した。
鯛めしを作る。
以前にも鯛めしを作ったことがある。ずいぶん久しぶりである。
鯛めしと言うとそれはちょっとお祝いの飯と思われがちだが、作るのは案外簡単だ。
・米は水につけて置いておく
・鯛を3枚におろす
・塩を振って水分を飛ばす
・身、アラを焼き目がつくまで炙る
・身、アラ、醤油、酒、米を炊飯器に入れて炊く
これだけだ。スーパーで3枚おろししてもらえば手間はグッと減るだろう。もちろん包丁に自信があるなら自分で捌くといい。
本来はアラを炙ったあとに鯛と昆布で出汁をとり、その出汁でもって米を炊くのが正当なのだが、そんな悠長なことをしていられないのが令和の生き方。アラごと炊飯器にぶち込めばよろしい。
また、薄口醤油を使ったレシピがほとんどだが、濃口醤油を使っても問題ない。出来上がりの色合いがちょっと濃くなるかどうか、それだけだ。薄口醤油というものを使ったことがないのでわからないので、私はそうしている。
お頭と、捌くのに失敗してぐちゃぐちゃになった得体の知れない部位は、炙ったのちに小鍋で出汁を抽出し、あら汁としていただく。このとき、ネギの青い部分と生姜を入れると臭みが取れるうえ、味がグッとよくなる。
ここまで書いて、いや、ふつうに面倒臭いな、と思った。
実際やってみたらわりと大変というか、平日にはできないな、って感じの手間だ。
捌くのは慣れていないと難しいし、骨を抜くのも手間だし、あらゆるゴミが散乱するし、洗い物も加速度的に増えていく。
でも後悔はしない。
いろいろとグチグチ書いているけれど、基本的にはレシピに従えば失敗しない。道を外れる場合は自己責任で。
そんなこんなでいろいろやって、膨大な洗い物を済ませ、YouTubeで馬の蹄を削ぐ動画でも見ているとあっという間に炊き上がる。
これをあら汁とともにいただく。
美味い。
鯛の旨みが米に染み込み、ほぐれた身と食べると口の奥でぎゅっと鯛を感じる。鯛の味わいは胸の中でじんわりと幸せを教えてくれる、魚の中でもっとも祝福感のある味だ。
手間だったけど作ってよかった。やはり後悔しないのだ、鯛めしは。
恐れ慄くほど難しくもないし、手順を踏めばそう失敗はしない。
特別でもなんでもない日に食べると、その日は特別になる。平凡の祝福、それが鯛めし。