父が昨年死んだとき、客死だったのでなんか葬儀とかあげることができず(誰もあげる気がなかったので節約できてちょうどよかった)、小さいセレモニーホールみたいなところでとりあえず遺体を安置していた。
そのとき知ったのだが、通夜とは一晩中線香を絶やしてはならないらしい。
意味がわからない。
意味がわからないけど、言われてみれば線香を絶やしてはならないような気もしてくる。故人と過ごす最後の夜になるのだ。そのための理由に過ぎない風習なのだろうけど優しくもある。
だけどそれはあまりにも面倒くさかったし、私はそのへんのビジホに泊まってぐっすり眠りたかった。
すると葬儀会社の人が、なにやら蚊取り線香みたいなものを設置し、火を点けたのでそれはなにかと訊くと「一晩中燃えている線香なので、火を足さなくてもいいんですよ」と教えてくれた。
助かった。
そうして私はそのへんの安いビジホに泊まることができた。枕が死後硬直したみたいに硬くて最悪のホテルだった。
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故人の食事は線香の煙らしい。
死者は煙を食らうのだ。仙人が霞を食事とするみたいなものだろうか。
なんかいいな。
死者が食事を必要とするとして、何を食べるか考えたとき、たしかに一番それっぽいのは「煙」だと思う。煙か、雫だろう。
ただ、どうやって煙を食べるのだろう。
普通に吸うのだろうか。それとも、啜るのだろうか。
ジュルルルルルッ!ジュポジュポジュポジュポ!ズチュゥゥウウウウウウズルズルズルズルズルズルズルズル!!!!!ギュロロロロロロロジュチュルチュルチュルチュルルルルルルルルルルルルルルルルル!!!!!!!ジュッポンジュッポン!!!
そうやって啜るのだろうか?
はぁはぁしながら、白目を剥きながら、涎を垂らして……。すごく不潔だ。
あと、煙が食べ物なら、線香の清涼な香りではなく、私だったら焼肉とかウナギを焼く煙の方が嬉しい。
ウナギのかば焼きの煙をオカズにして箸の刺さった白飯を食らう。
そうだ。白飯だって供えるじゃないか。白飯と線香の煙が合うはずないだろ。
ここにビジネスチャンスを見た。
焼肉の香りがする線香を開発しよう。
若い女の子の故人のために、チョコレート・パフェやプリンの香りがする線香があってもいいかもしれない。
話は少し変わるけど、死に化粧ももうちょっと飾ってやってもいいんじゃないかと思う。とくに女性だったら最後まで綺麗でいたいだろうし、死体にネイルをする葬儀屋はけっこう当たると思うのだが。あらかじめ自分の葬式をプロデュースする時代だ。
あつ森とかSNSを使って葬式するのもよさそう。今や人とのかかわり方は電子の世界にまで及んでいるのだから。
よし、今すぐ会社を辞めて起業しよう。
これからは死ビジネスの時代だ。死バブルで豪邸を建てよう。
もちろん豪邸は棺桶のかたちにする。